研究課題/領域番号 |
20K05865
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
市川 善康 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 教授 (60193439)
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研究分担者 |
細川 誠二郎 早稲田大学, 理工学術院, 准教授 (10307712)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 海洋天然物 / 有機合成 / 生合成 / 海綿 |
研究実績の概要 |
謎に包まれた海洋生物独自の生合成探求を命題として,「生合成仮説に立脚した天然物合成」を目指した。具体的な対象として,海綿から単離構造決定された含窒素テルペンであるボネラタミドA,BとCのバイオミメティックな合成ルートの開拓を目指した。メントールを出発原料として,ケトスルホンより誘導したジアゾケトンの分子内シクロプロパン化によってスピロ構造を構築した。さらにナトリウムアジドによりシクロプロパンの立体選択的な開環反応によってアジド基の導入に成功した。アジド基の還元,ホルミル化と脱水反応によってイソシアニドとした。さいごにアセトンあるいはアセトアルデヒドとグルタミン酸メチルエステルとのUgi反応によって,ボネラタミドA,BとCの合成に成功した。これによって,未知の生体内反応を実験室において再現することに成功した。この実験結果は,「自然界が代謝産物の多様性を獲得するためにUgi反応を用いている」という仮説の妥当性を裏付ける証拠となる。 海洋生物由来のポリエーテル化合物,エイカンチフォリシンは,エピスルフィド構造をもつ唯一の天然物である。前駆体として,日本近海に棲息する海綿より単離された,タンパク質脱リン酸化酵素阻害剤であるオカダ酸に着目した。オカダ酸と未知のエピスルフィド化酵素との反応による生合成を推測した。生合成類似反応として,触媒を用いたアルケンのエピスルフィド化する反応に着目した。現在,触媒の調製とモデル化合物の合成を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Ugi反応によって,ボネラタミドA,BとCの合成に成功して,未知の生体内反応を実験室において再現することができた。合成したボネラタミドA,BとCのプロトンNMRが,天然のプロトンNMRと完全に一致することを確認している。 エピスルフィド化酵素を模倣する生合成類似反応として,金属触媒を用いたアルケンのエピスルフィド化反応に注目した。現在の状況として,触媒の調製を完了した。さらに,オカダ酸の部分構造をもつスピロ三置換オレフィン構造のモデル化合物を合成した。
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今後の研究の推進方策 |
合成したボネラタミドA,BとCの旋光度の符号にばらつきがあり,単離を報告しているAndersen教授に問い合わせをしている。天然のエナンチオマーを合成した可能性が生じている。ある程度の量を合成して,信頼のおける旋光度の値を測定する予定である。さらにボネラタミドBとCのX線結晶解析を行い,未決定であったアミノ酸部位の相対立体配置を決定する計画である。 市販のモデル化合物を基質として,金属触媒を用いたアルケンのエピスルフィド化反応を検討する計画である。ここで得られた知見を基にして,オカダ酸の部分構造をもつスピロ三置換オレフィンのエピスルフィで化を検討する計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナによる非常事態宣言が発令されて,本格的に研究を開始する時期が遅れた。このため,次年度使用額が生じた。コロナによって出張の見送りが大学より要請されている。共同研究者との打ち合わせや学会発表をを控え,遠隔ビデオを活用して,出張費を実験器具や試薬などの消耗品にまわす計画をしている。
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