研究課題/領域番号 |
20K05866
|
研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
恒松 雄太 静岡県立大学, 薬学部, 講師 (30629697)
|
研究分担者 |
早川 一郎 日本大学, 文理学部, 教授 (20375413)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 担子菌 / 生合成 / コプリノフェリン / 子実体 / シデロフォア / 天然物 / 生理活性分子 |
研究実績の概要 |
担子菌ウシグソヒトヨタケ(Coprinopsis cinerea)遺伝子改変株から発見した鉄結合性分子コプリノフェリン(CPF)は、同菌の生活環において菌糸成長・子実体(いわゆる、キノコ)形成活性を有す生理活性分子である。遺伝子相同性検索の結果、Coprinopsis属だけでなく数多くの担子菌ゲノム中にCPF類似の生合成遺伝子クラスター(BGC)が含まれていることが示唆された。それに反して、これまでの天然物化学・物質探索研究の長い歴史において、他の担子菌種からCPF分子が見いだされた報告は一例もなかった。そこで私は、担子菌類においてCPF分子が微量ながら普遍的に存在し、それら菌体のなかでヒトヨタケ同様の生理的役割(菌糸成長・子実体形成活性)を担っているのでないかと仮説立て、本研究で検証することとした。加えて、上記の生理活性を利用し、培養が困難、あるいは栽培化が難しいといった担子菌キノコ種(例えばマツタケなど)について、CPF分子、あるいは人為的に機能向上させたCPF関連人工合成分子を巧みに操ることで、上記のような担子菌種の栽培化を可能にすることが期待できる。私のオリジナル分子「CPF」の研究は、長年の謎「キノコ(子実体)がなぜ生えるのか」といった基礎的な研究にアプローチするためのツールとなるだけに留まらず、産業応用化も狙える点で意義があると考え、本研究に取り組んでいる。 マイタケ・アミガサタケなど食用担子菌キノコ種の公開ゲノム情報から、これらの菌にはCPFを生合成する遺伝子が含まれることが示唆された。昨年度においては、これら食用担子菌キノコ種にCPF分子が含有されるかを分析調査するための基盤整備を行った。今年度はCPF分子の生合成機構について解析を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究分担者早川らによりCPFの化学全合成が達成された。合成品の各種スペクトルデータ(NMRやMSなど)は天然単離品CPFと良く一致したことから、先に提唱していた化学構造の正当性を、立体化学を含めて確かめることができた。一方、本年度において私達はCPFの生合成経路解明を目指した。CPFの普遍性の理解のためには、その生合成に関わる酵素・遺伝子の機能を明らかにしておくことが重要だと捉えたためである。CPF生合成において、非リボソーム性ペプチド合成酵素と相同性を示すCpf1酵素が、N5-hexanoyl-N5-hydroxylornithine (HHO)を基質として3つのペプチド結合を形成すると予想した。そこで本酵素の機能について解析を実施した。まず、分担者早川らによってHHOの合成が達成された。私達は全長7 kbのcpf1遺伝子をウシグソヒトヨタケから調製したcDNAよりクローニングし、大腸菌用発現ベクターへ組み込んだ後、リコンビナント酵素の獲得を行った。獲得したCpf1酵素と基質(HHO)を試験管内にて反応させたところ、HHOの3量化物の生成が確認された。詳細は割愛するが、HHO類縁体をいくつか合成しCpf1酵素の基質許容性を調査した。その結果、Cpf1は寛容な基質許容性を有し、使用する基質に応じて多様な3量化生成物を与えることを見出した。本成果にて、複数種類の新規CPF関連化合物を創出することができた。現在その生理活性(キノコに対する菌糸成長・子実体形成活性)について評価を行っている。
|
今後の研究の推進方策 |
1. CPF分析系の改善を行う。担子菌種によっては抽出過程にてCPF分子の分解が起こっている可能性がある。合成したD3-CPFを用い、分解を防ぐ抽出・分析条件を確立する。 2. Coprinus属とは異なる属の担子菌種において、CPFが検出され得るかを検証し、担子菌におけるCPF分子の普遍性を明らかにする。 3. CPF生合成経路の解明、加えてCpf1の酵素機能の詳細解明 4. 難培養性、栽培困難な担子菌種に対してCPF分子をケミカルツールとして培養の効率化を目指す。 5. 独自にデザインしたCPF誘導体分子の合成により、産業的に使用され得るケミカルツールを開発する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
1. CPF分析系が未だ確立できておらず、本研究の一つの鍵としていた「NITE由来担子菌培養物ライブラリ124種」が実施できる状況になかった。消耗品費として50万円ほどを本研究項目に計上していたため、これは次年度以降、分析系確立に目処がつき次第、計画通りに執行する予定である。 2. 研究代表者恒松は2021年3月をもって異動することが確定していたため、研究室PIの判断のもと研究室内において新たな学生の配属が行われなかった。そのため、本来行うことを予定していた一部の実験が実施できなかった。
|