担子菌ウシグソヒトヨタケ(Coprinopsis cinerea)遺伝子改変株(laeA欠損株)から発見した新規天然物コプリノフェリン(CPF)は鉄結合能をもつシデロフォア分子であり、同菌の生活環において菌糸成長や子実体(キノコ)形成を促進する活性を有す。遺伝子相同性検索の結果、Coprinopsis属だけでなく数多くの担子菌ゲノム中にCPF類似の生合成遺伝子クラスター(BGC)が含まれていることが示唆された。それに反して、これまでの天然物化学・物質探索研究の長い歴史において、他の担子菌種からCPF分子が見いだされた報告は一例もなかった。本研究では、担子菌類においてCPF分子が微量ながら普遍的に存在し、それら菌体のなかでヒトヨタケ同様の生理的役割(菌糸成長・子実体形成活性)を担っているのでないかと仮説立て、検証することとした。本研究期間では、まずCPFの化学的全合成を行い、天然物CPFの化学構造・生物活性の確認を達成できた。続いてCPFの定量法開発研究として、CPF中のアセチル基に重水素が導入されたD3-CPFを合成し、本化合物を内部標準物質としてLC-MS測定を行う系を確立した。本系を用いて様々なキノコ種の化学分析を行ったところ、微量ではあるものの、複数種のキノコからCPF分子を検出することができた。以上により、CPFはC. cinereaのみならず、複数担子菌にて生合成される点を明らかにした。最後に、CPF分子の基礎骨格を構築する非リボソーム性ペプチド酵素Cpf1のリコンビナントタンパク質を取得し、化学合成基質を用いた酵素反応にてその酵素学的性状を明らかにした。Cpf1は比較的緩慢な基質許容性を示し、多様な三量体ペプチド分子を合成することができることを示した。最終年度はCpf1酵素の立体構造解析を目指して研究を展開した。
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