近年、肥満、糖尿病をはじめとする生活習慣病が社会問題となっており、ショ糖に代替できる甘味料が切望されている。甘味タンパク質ソーマチンはショ等に比べモル比で10万倍と非常に強い甘味を呈するノンカロリー甘味料であるが、甘味発現に必須な構造的特性については未だ明らかとなっておらず、高分解能X線解析を行い、水素原子を含めた詳細な構造特性を明らかにするとともに、甘味受容体とのドッキングモデルから想定される相互作用領域に変異を加え、更なるソーマチンの高甘味度化を達成できれば、新規なタンパク質性甘味料の創出に繋がるロールモデルとなり得る。そこで酸性条件下における特徴的な構造要因を見出すため、pH 4.0における結晶を作製し、X線結晶構造解析に供し、原子レベルでの構造情報を得ることを試みた。また同時にpH 6.0および、pH 8.0の結晶を作製し、得られた構造との比較を行った。次にpH 4.0、6.0、8.0における融解温度(Tm)を、示差走査蛍光光度法を用いて検討した。その結果、pH 4.0では、TmはpH 6.0と比べ低く、かつ構造全体の温度因子もpH 6.0の場合よりも高い値を示した。しかしながら、興味深いことに、いくつかのリシン残基ではpHが低下するにつれて、その温度因子が相対的に減少していた。 以上のことより、pH 4.0では、全体的な構造は柔軟になるが、いくつかのリシン残基では、相対的な柔軟性が低下していた。したがって、相対的なリシン残基の柔軟性の低下が、熱凝集を防ぎ、甘味を維持する上で重要な役割を果たす可能性が提起された。本結果をもとに更に原子レベルでの解析を進め、ソーマチンの熱安定性や、熱凝集に寄与する構造要因を明らかにし、その他多くの食品タンパク質に対しても、安定性や凝集性をコントールできる手法を構築し、新規植物由来の食品素材の開発に繋げたい。
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