研究課題/領域番号 |
20K05878
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研究機関 | 石川県立大学 |
研究代表者 |
松本 健司 石川県立大学, 生物資源環境学部, 教授 (60288701)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 難消化性糖質 / 腸管IgA / 短鎖脂肪酸 / ヌードマウス |
研究実績の概要 |
今年度は資化性が異なる3種類の難消化性糖質をサンプルとしBALB/cAマウスおよびBALB/cA-nu/nuマウス(ヌードマウス)に対する腸管IgA誘導能の検討を行った。いずれの実験も、精製飼料に含まれるセルロースのうち3%をサンプルに置き換え実験飼料とした。開始時、2週目、5週目、9週目の糞中のIgA量を検討し、解剖時(10週目)における盲腸内容物の短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸、プロピオン酸)量について分析を行った。 BALB/cAマウスにおける実験では3種類の難消化性糖質はいずれも腸管 IgA分泌を高め、2週目から2倍程度増加し、2週目から5週目では微増、5週目から9週目にかけてさらに2倍程度増加した。腸管IgA分泌量と盲腸内短鎖脂肪酸の関係を見てみると、酢酸と酪酸が2倍以上に増加した2つのサンプル間で、腸管IgA分泌量が大きく異なっていた。また、いずれの短鎖脂肪酸を誘導しないサンプルが高い腸管IgA分泌を示した。食物繊維による腸管IgA誘導において短鎖脂肪酸は重要な誘導因子とされているが、これらの結果は少なくとも酢酸と酪酸は腸管IgA誘導にあまり重要でないことを示している。 ヌードマウスにおける実験では、3種類の難消化性糖質はいずれも腸管 IgA分泌を高めたがBALB/cAマウスと異なり、2週目以降のIgA増加はほとんど見られなかった。現在、引き続きBALB/cAマウスの結果とヌードマウスの結果を詳細に比較検討している。 腸管IgA誘導能が高かったサンプルの1つである難消化性グルカンについて、昨年度から引き続き詳細な検討を行ったところ、難消化性グルカンの重合度5以下の画分は投与後6週以降にIgA誘導を高め、重合度5以上の画分は即時的にIgA誘導を高めることがわかった。これらの結果をまとめ、学術論文として報告した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究はT細胞の機能が正常なBALB/cAマウスと、同一系統でT細胞の機能異常が起こっているBALB/cA-nu/nuマウス(ヌードマウス)を使用して異なる性質、特に腸内細菌による資化性が異なる難消化性糖質の腸管IgA分泌の作用メカニズムを明らかにするものである。 2021年度はすべてのサンプル(3種類の難消化性糖質)を用い、BALB/cAマウスとヌードマウスにおいて1群6匹で9週間の実験を行い、腸管IgA誘導および盲腸内の短鎖脂肪酸量に関して、サンプル間での違い、およびBALB/cAマウスとヌードマウスでの違いに関しての知見を得ることができた。この結果、2021年度のサンプルを用いて遺伝子発現解析やたんぱく質発現解析を行い、難消化性糖質による腸管IgA誘導についてのメカニズム、特に短鎖脂肪酸の関与やT細胞の関与について、作用メカニズムを明らかにすることができる。 また、サンプルの1つである難消化性グルカンについて掘り下げて研究を行い、重合度の違いによる腸管IgA分泌誘導能の違いや、腸内細菌による資化性などについてまとめ、学術論文として発表することができた。さらに、難消化性グルカンが腸管のどの部位でIgA分泌を誘導しているかについての分析方法について、ターゲット因子になりえる物質を含めて検討し、作用メカニズムの違いの解明に役立てる分析方法の目途を立てることができた。 以上のことから、本課題は計画通り進んでおり、現在までの進捗状況を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度はBALB/cAマウスとヌードマウスにおい3種類の難消化性糖質をサンプルとして実験を行いBALB/cAマウスとヌードマウスともに難消化性糖質が腸管IgAを誘導すること、盲腸内短鎖脂肪酸の量と腸管IgA発現量には相関がないことを明らかにしたが、それぞれのデータについて十分に比較ができていない。よって、今年度はまず、BALB/cAマウスとヌードマウスでのデータを詳細に比較検討し、難消化性糖質による腸管IgA誘導におけるT細胞依存経路とT細胞非依存経路の割合やサンプル間での違いを明らかにする。また、盲腸内短鎖脂肪酸を有意に高めるポリデキストロースと盲腸内短鎖脂肪酸を高めない難消化性グルカンがともに3%の摂取で腸管IgA量を5倍に高めることが分かったため、この2つのサンプルについて、腸管でのIgA誘導部位を検討し、2つのサンプルの違いを明らかにする。 一方、盲腸内短鎖脂肪酸量を増加させる2種類の難消化性糖質では血中、顎下腺、肺におけるIgA発現を有意に高めていたが、短鎖脂肪酸を増加させない難消化性糖質では血中、顎下腺、肺におけるIgA発現が高まっていなかった。血中、顎下腺、肺においてIgA発現が高まるということは、腸管免疫系だけでなく全身免疫系にも影響があると考えられ、全身免疫系への影響を調べるために、脾臓における遺伝子発現解析、たんぱく質発現解析を行い、短鎖脂肪酸を誘導する難消化性糖質が全身免疫系に与える影響を明らかにする。今年度は最終年度であるため、脾臓への影響を含めBALB/cAマウスとヌードマウスを用いた実験を学術論文としてまとめる予定である。
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