研究実績の概要 |
昨年度のBALB/cAマウスを用いた研究において、盲腸内短鎖脂肪酸量が増加したフラクトオリゴ糖(FO)とポリデキストロース(PD)投与群では腸管に加え、血中、顎下腺、肺におけるIgA量が増加していたが、短鎖脂肪酸量が増加しなかった難消化性グルカン(IG)投与群では腸管のみIgA量が増加していた。これらの結果は腸管での短鎖脂肪酸量の増加が全身の免疫系に影響を与えることを示唆している。短鎖脂肪酸と全身免疫の関係について明らかにするため、今年度は全身の免疫系に関係している脾臓におけるDNAマイクロアレイ解析を実施し、Gene Ontology解析を行った。その結果、Biological Processのカテゴリーにおいて短鎖脂肪酸量が増加したFO群とPD群では細胞増殖に関連する遺伝子を中心に変動遺伝子が70%以上共通していた。一方、短鎖脂肪酸量が増加しなかったIG群ではほとんど遺伝子変動が無く、FO群とPD群との共通性が見られなかった。このことは腸内で増加した短鎖脂肪酸が全身の免疫系へ影響を与えることを示しており、IgAの発現量の結果と一致する。 上記結果を含め、BALB/cAマウスとヌードマウスの実験で得られた結果を詳細に比較し、以下の通り結論付けた。 ①多分岐構造を有する難消化性糖質は腸管IgA産生誘導能が高い。②腸管IgAの産生誘導には短鎖脂肪酸を介さない経路が存在する。③難消化性糖質による腸管IgA産生誘導はT細胞が存在しなくても起こる。④腸管における短鎖脂肪酸産生は全身免疫に影響を与え、血中や肺のIgAの産生を誘導するが、血中や肺のIgA産生誘導にはT細胞が必要である。⑤難消化性糖質による腸管ムチン誘導には短鎖脂肪酸やIgA誘導、T細胞は関係ない。 上記内容について論文としてまとめ報告した(The Journal of Nutrition, In press)。
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