研究課題/領域番号 |
20K05883
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
熊谷 日登美 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (20225220)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 米胚乳アルブミン / 米糠アルブミン / 多糖分解酵素 / 血糖値上昇抑制 / 糖尿病予防 |
研究実績の概要 |
2型糖尿病の予防と治療には,食後の血糖値上昇を穏やかにする食品の摂取が有効である。我々はこれまでに,米胚乳アルブミン(REA)が,哺乳類のα-アミラーゼを阻害しないにも関わらず,また,デンプンのみならず,グルコースを摂取した際でも,血糖値上昇抑制作用を示すことを明らかにしている。このように,REAは糖尿病予防効果を有する食品素材としての利用価値が高いが,抽出効率が悪いことが課題である。一方,米糠は,胚乳よりも多くのタンパク質を含んでいるが,廃棄されることが多い。米糠アルブミン(RBA)にも,REAと同様の効果があれば,米糠の付加価値を高めることが可能である。そこで本研究では,タンパク質の抽出を阻害していると考えられるデンプンや食物繊維を酵素により分解することにより,REAおよびRBAの抽出効率の改善を試みた。 生米あるいは米糠を緩衝液に溶解し,α-アミラーゼを作用させた後,α-グルコシダーゼ,β-アミラーゼ,グルコアミラーゼまたはプルラナーゼを加えて反応させた。反応溶液を加熱し酵素を失活後,遠心分離し得られた上清中の還元糖量およびタンパク質濃度を測定した。RBAの抽出においては,上記酵素に加え,ヘミセルラーゼも作用させた。また,トリプシンを作用させ,夾雑タンパク質の除去を試みた。 米胚乳の分解では,デンプンより生じた上清中の還元糖量は,グルコアミラーゼを用いた場合が最も多く,タンパク質濃度は酵素未使用の場合の約2倍となった。米糠の分解では,ヘミセルラーゼを加えることで,未使用の場合よりも上清中のタンパク質濃度は上昇したが,水溶性食物繊維が残存していた。また,トリプシンを作用させることにより,夾雑タンパク質が除去された。これらの結果から,デンプン,食物繊維および夾雑タンパク質の分解が,REAおよびRBAの抽出に有効であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
米胚乳に,多糖分解酵素であるα-グルコシダーゼ,β-アミラーゼ,グルコアミラーゼまたはプルラナーゼを加えて反応させることにより,抽出されたタンパク質濃度は酵素未使用の時と比べ,最大約2倍になった。また,米糠においては,これらの酵素に加え,ヘミセルラーゼを添加することにより,抽出されたタンパク質濃度は増加したが,水溶性食物繊維が残存していた。しかし,食物繊維には,グルコース等の吸着効果を有するものもあるので,食物繊維を含んだ状態でも,血糖値上昇抑制作用を示す可能性がある。さらに,REAおよびRBAは,プロテアーゼに対する消化耐性が高いため,トリプシンを作用させたところ,夾雑タンパク質が分解された。これらの結果から,多糖分解酵素,食物繊維分解酵素,タンパク質分解酵素を作用させることにより,米胚乳および米糠から,血糖値上昇抑制効果を有するアルブミンの効率的な抽出が可能になった。研究は,概ね,計画通りに進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は,米胚乳あるいは米糠から抽出・精製したアルブミン画分をトリプシンにより低分子化し,ゲル濾過クロマトグラフィーおよびHPLCを用いて,2 kDa以下の低分子ペプチドを分画する。そして,マウス小腸上皮由来のSTC-1細胞に,LMPの分画物を添加し,SGLT1発現抑制効果をウェスタンブロッティングにより調べ,最も発現抑制効果の高い分画中のペプチドの配列を,nano LC-MS/MSにより同定する。 次年度は,STC-1細胞を用い,同定した機能性ペプチドが,甘味受容体T1R2/T1R3からGタンパク質であるガストデューシンを介してSGLT1発現までの経路のどこを阻害しているのかを,経路中のタンパク質のウェスタンブロッティングやその遺伝子のPCR増幅等により調べる。また,機能性ペプチドを蛍光標識し,STC-1細胞の甘味受容体T1R2/T1R3への結合の有無を調べる。
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