研究課題/領域番号 |
20K05888
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
應本 真 東京工業大学, バイオ研究基盤支援総合センター, 特任講師 (30447362)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 味覚 / 味細胞 / 転写因子 / 細胞分化 |
研究実績の概要 |
味覚の受容組織である味蕾は、様々な種類の味細胞により構成されている。本研究では、味細胞の発生・分化を制御する因子の同定・解析を目的として、野生型(WT)マウスおよび甘味、旨味、苦味、塩味細胞が欠失した Skn-1aノックアウト(KO)マウスを用いて、味蕾を含む組織のトランスクリプトーム解析を行い、甘味、旨味、苦味、塩味細胞に発現する遺伝子データベースの作製を試みた。味細胞の発生・分化を制御する因子は転写因子であると考えられるため、取得したデータ中の転写因子をコードする遺伝子に着目し、WTマウスの味蕾に特異的に発現する転写因子の4つの候補遺伝子を抽出した。これらの遺伝子について、in situ hybridization法を用いて有郭乳頭の味蕾における発現を調べたところ、4つのすべての遺伝子のシグナルが WTマウスの味蕾において観察された一方、Skn-1a KOマウスの味蕾ではシグナルが観察されなかったことから、これらの遺伝子は、Skn-1a系譜の味細胞に発現していることが示唆された。次に、これらの遺伝子が発現する味細胞種を同定するため、各転写因子遺伝子と味覚受容体遺伝子との二重in situ hybridizationを行った結果、Eya1のシグナルは苦味受容体を発現する味細胞に観察されることを見出した。Eya1の発現を詳細に調べたところ、Eya1のシグナルは苦味受容体を発現しない味蕾基底部の細胞にも観察され、これらの細胞は味覚受容体を発現しないがSkn-1a を発現する未分化の細胞であることから、Eya1は苦味細胞および未分化の細胞に発現することが明らかとなった。現在、味蕾におけるEya1の機能を解析するため、味蕾特異的にEya1遺伝子を欠損するコンディショナルKOマウスの作製に取り組んでいる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
マウスの味蕾中の苦味細胞にのみ発現する転写因子遺伝子Eya1を見出し、苦味細胞の分化を制御する候補遺伝子を取得することができた。現在、味蕾におけるEya1の機能を解析するため、味蕾特異的にEya1遺伝子を欠損するコンディショナルKOマウスの作製に取り組んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
1)Eya1遺伝子のノックアウトマウスの作製 苦味細胞に発現する転写因子遺伝子Eya1のノックアウトマウスの作製を行う。Eya1のノックアウトマウスは正常に成育できないため、Eya1遺伝子のエキソンをloxP配列で挟んだfloxマウス系統を作製する。作製したマウスと味蕾の幹細胞に薬剤誘導性CreリコンビナーゼであるCreERT2を誘導することができるノックインマウス系統を用いて味蕾特異的に機能破壊したコンディショナルノックアウトマウスを作製する。 2)ノックアウトマウスの分子生物学的・行動学的解析 作製したノックアウトマウスの味蕾において、苦味受容体の発現が消失あるいは減少するか、あるいは、苦味細胞自体が消失あるいは減少するのかを、免疫組織染色、in situ hybridization、real-time PCR法を用いて検証する。また、ノックアウトマウスおよびコントロールマウスを用い、水と味溶液を同時に提示して48時間後の各溶液の摂飲量を記録する。この二瓶選択試験法により、様々な味物質に対する嗜好性を解析し、比較する。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行した。一方、研究に必要なマウスの作成については他の予算を用いて行った。そのため、当初の見込み額と執行額は異なるが、研究計画に変更はない。前年度の繰越の研究費も含めて今年度の研究費を執行し、当初の予定通りの計画を進めていく。
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