味覚の受容組織である味蕾は、様々な種類の味細胞により構成されている。本研究では、味細胞の発生・分化を制御する因子の同定・解析を目的として、味蕾特異的に発現する転写因子の探索を行った。その結果、転写因子Eya1がマウスの味蕾中の一部の細胞に強く発現していることを見出した。次に、味蕾においてEya1遺伝子が発現する細胞種を同定するため、味覚受容体遺伝子との二重in situ hybridizationを行った結果、Eya1のシグナルは苦味受容体を発現する味細胞に観察されることを見出した。Eya1の発現を詳細に調べたところ、Eya1のシグナルは苦味受容体を発現しない味蕾基底部の細胞にも観察され、これらの細胞は味覚受容体を発現しない未分化の細胞であることが示唆された。令和4年度では、味蕾におけるEya1の機能を解析するため、味蕾特異的にEya1遺伝子を欠損するコンディショナルノックアウトマウスの作成し、解析した。マウスは、Eya1遺伝子のエクソンの1つを挟むようにして2つのloxP配列を挿入したfloxマウスと、味蕾の幹細胞に薬剤誘導性CreリコンビナーゼであるCreERT2を誘導することができるノックインマウス系統(Krt5-CreERT2マウス)を掛け合わせることにより、作成した。得られたマウスの有郭乳頭の味蕾において、苦味受容体遺伝子の発現が減少していたことから、Eya1が苦味受容体の遺伝子発現の制御、あるいは、苦味細胞の発生・分化に関与している可能性が示唆された。
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