研究課題/領域番号 |
20K05893
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研究機関 | 前橋工科大学 |
研究代表者 |
薩 秀夫 前橋工科大学, 工学部, 准教授 (80323484)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | IL-12 / 乳酸菌 / NK細胞 / マクロファージ |
研究実績の概要 |
世界的な感染症に曝される今日、感染防御に重要な免疫能・生体防御能の増強は極めて重要である。生体防御に重要な免疫細胞であるナチュラルキラー(NK)細胞は、マクロファージや樹状細胞から分泌されるインターロイキン12(IL-12)によって活性化されるが、近年ある種の乳酸菌がマクロファージなどに作用してIL-12分泌を誘導することが報告されている。そこで本研究では、NK細胞活性化を誘導するIL-12を標的として、IL-12発現を亢進する食品成分を探索・解析することとした。 食品成分としては、乳酸菌をオートクレーブ処理した死菌体を用いた。マクロファージモデル細胞であるJ774.1細胞に乳酸菌死菌体を添加した後、IL-12のmRNA発現量をreal-time PCR法にて測定した。その結果、2種類の乳酸菌株がIL-12のmRNA発現量を顕著に増加させ、これらの乳酸菌株はIL-12分泌も有意に亢進した。また見出された乳酸株について死菌と生菌で活性を比較したところ、死菌体の方がより高いIL-12誘導活性を示した。 そこで乳酸菌のどのような成分がIL-12発現亢進に関与しているのか、各種酵素処理をおこなった結果、RNase処理によって菌体によるIL-12発現亢進は有意に抑制された。実際に菌体よりRNAを抽出しJ774.1細胞に導入したところIL-12のmRNA発現は亢進し、IL-12発現亢進には菌体RNAの関与が示唆された。さらに乳酸菌体によるIL-12発現誘導の細胞内シグナル経路についてRNA干渉法を用いて解析した結果、RNAを認識することが知られるTLR3およびTLR7をノックダウンしても菌体によるIL-12発現亢進は変化しなかったのに対し、TLR8をノックダウンした場合にはIL-12発現亢進が有意に抑制され、乳酸菌によるIL-12発現亢進にはTLR8が関与していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
免疫能・生体防御能の亢進に重要な免疫細胞であるNK細胞の活性化を誘導するIL-12を標的として、IL-12発現を亢進する乳酸菌の探索・解析を進めた。マクロファージモデル細胞を用いて、数十種類の乳酸菌についてスクリーニングをおこなった結果、幸い2種の乳酸菌株がIL-12のmRNA発現を顕著に亢進することを見出すに至った。また見出された乳酸菌株について生菌と死菌でIL-12誘導活性を比較したところ、死菌の方が高いIL-12誘導活性を示した。これは将来的に食品開発に応用していく上で、食品加工面などで非常に重要な知見と考えられる。また菌体中のRNAが活性化成分の一部であることが明らかとなり、本年度から既にその細胞内シグナル経路についても解析を進めている。 一方で、見出された乳酸菌体がin vivoでも作用しうるか検討するために実験動物を用いた予備検討を開始している。現在のところ、用いるマウスとしてBalb/cのメス、6週齢から飼育開始し、予備飼育1週間後の7週齢から乳酸菌体の経口投与を開始するなどの条件を決定しつつある。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、IL-12の発現を顕著に亢進する乳酸菌株をこれまでに2種類見出している。そのうち1種類は、主として菌体のRNAによってIL-12発現が亢進していることが見出されていることから、さらに菌体RNAがIL-12発現を亢進するその細胞内シグナルメカニズムについて分子レベルで詳細に解析する。またもう1種類の乳酸菌は、菌体RNAがIL-12発現亢進に一部関与していることを見出しているものの、RNA以外の菌体成分の関与も示唆されている。そこでRNA以外のどのような菌体成分がIL-12発現亢進に関与しているか検討を進める。さらに、RNAおよびその他の菌体成分がIL-12発現を亢進する分子メカニズムについてもRNA干渉法などを用いて明らかにする。 また並行してin vivoでのこれらの乳酸菌の評価として、マウスに乳酸菌を投与した際の免疫系への作用などを検討する。昨年度に引き続き本年度は、投与する乳酸菌の数や投与期間など様々な条件検討を進める。並行して、各臓器や血中のサイトカイン量など評価マーカーの安定な測定法についても検討を進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19のため大学構内への入構禁止に伴う研究活動の一定期間の中断、また学会などがすべてオンライン開催となったため当初予定していた旅費の使用が0となったことなどから、次年度使用額が生じた。本年度もCOVID-19の状況をみつつ、物品費を中心に計画的な使用を心掛けたい。
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