研究課題
世界的な感染症の蔓延が続く今日では、免疫能・生体防御能は感染防御並びにその重篤化の防御に極めて重要な役割を担っている。本研究では、生体防御において中心的な役割を担う免疫細胞の一つであるナチュラルキラー細胞を活性化するインターロイキン12(IL-12)に注目し、マクロファージにおけるIL-12発現・分泌を亢進する乳酸菌を探索・解析することとした。昨年度までに2種類の乳酸菌株がマクロファージモデル細胞においてIL-12発現・分泌を亢進することを見出しており、本年度はさらに解析を進めた。見出された乳酸菌の1種類はその菌体中のRNAがIL-12発現を亢進し、さらにその亢進にはRNAを認識することが知られるTLR8が関与していることが示された。そこでさらにTLR8の下流に位置するMyD88についてRNA干渉法を用いて解析した結果、MyD88ノックダウン条件下では菌体によるIL-12発現亢進は有意に抑制された。さらにIL-12の転写制御が報告されている転写因子IRF5の関与を同様に検討した結果、IRF5ノックダウン条件下でもIL-12発現亢進は抑制され、また実際に乳酸菌添加によってIRF5が核内へ移行することが示された。これらの結果より、乳酸菌死菌体中に含まれるRNAがマクロファージモデル細胞内のTLR8に作用し、MyD88を介してIRF5を活性化しIL-12転写活性を誘導することで、IL-12発現・分泌を亢進することが示唆された。さらに乳酸菌を様々な食品に添加しやすくすることを考慮し、粉末化した乳酸菌を調製・検討した。粉末化乳酸菌についてIL-12発現に及ぼす影響を検討したところ、菌数依存的にIL-12のmRNA発現を亢進した。また粉末化乳酸菌は、同じ菌数の懸濁状態の乳酸菌と同程度にIL-12のmRNA発現を亢進し、粉末化してもIL-12発現亢進能は保持されることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
免疫能・生体防御能の亢進に重要な免疫細胞であるナチュラルキラー細胞の活性化を誘導するIL-12に注目し、IL-12発現を亢進する乳酸菌の探索・解析を進めた。昨年度までに、マクロファージモデル細胞を用いてIL-12発現亢進能の高い2種類の乳酸菌株を見出した。また見出された乳酸菌株の1株については、本年度にその菌体成分であるRNAがIL-12の転写活性を亢進するに至る細胞内シグナルメカニズムをおおよそ明らかにすることができた。さらに様々な食品への添加を容易にするため、粉末化した乳酸菌についても検討を進め、IL-12誘導活性が保持されていることを確認するに至った。今後、さらに粉末化乳酸菌について詳細に解析を進める予定である。一方で、見出された乳酸菌体がin vivoでも作用しうるか検討するために実験動物を用いた予備検討を昨年度より実施している。本年度の結果より、用いるマウスとしてBalb/cのメス、6週齢から飼育開始し、予備飼育1週間後の7週齢から乳酸菌体の経口投与を3週間おこなうなどの条件を決定しつつある。今後これらの条件を用いて、本実験をおこなう予定である。
本研究では、IL-12の発現を顕著に亢進する乳酸菌株をこれまでに2種類見出している。そのうち1種類については、主として菌体のRNAによってIL-12発現が亢進していることが見出され、さらに本年度の研究で細胞内の制御メカニズムをおおよそ見出すに至ったが、一方もう1種類の乳酸菌は、菌体RNAがIL-12発現亢進に一部関与していることを見出しているものの、RNA以外の菌体成分の関与も示唆されている。RNA以外のどのような菌体成分がIL-12発現亢進に関与しているかについて本年度検討をはじめており、今後さらに解析を進める。さらに粉末化乳酸菌についても、詳細に解析を進める予定である。並行してin vivoでのこれらの乳酸菌の評価として、マウスに乳酸菌を投与した際の免疫系への作用などを検討する。来年度は、本年度までに実施した予備実験の結果(投与する乳酸菌の数や投与期間など)を用いて、実際に各臓器や血中のサイトカイン量などへの影響を解析する予定である。さらにIL-12を誘導する乳酸菌株は、並行して抗炎症性サイトカインであるIL-10の発現をも誘導する場合があることが報告されている。そこで今回用いている2種の乳酸菌株についても、IL-10発現に及ぼす影響について検討する予定である。
COVID-19のため昨年度に引き続き学会などがすべてオンライン開催となり、旅費の使用が0となったことなどから次年度使用額が生じた。本年度もCOVID-19の状況をみつつ、物品費を中心に計画的な使用を心掛けたい。
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前橋工科大学研究紀要
巻: 25 ページ: -