研究課題/領域番号 |
20K05893
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研究機関 | 前橋工科大学 |
研究代表者 |
薩 秀夫 前橋工科大学, 工学部, 准教授 (80323484)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | IL-12 / 乳酸菌 / マクロファージ / NK細胞 |
研究実績の概要 |
感染症の脅威に曝されている今日では、免疫能・生体防御能は感染防御並びにその重篤化の予防に重要な役割を担っている。本研究では、生体防御において中心的な役割を担う免疫細胞の一つであるナチュラルキラー細胞を活性化するインターロイキン12(IL-12)に注目し、マクロファージにおけるIL-12発現及び分泌を亢進する乳酸菌を探索・解析した。昨年度までに、ある種の乳酸菌株がマクロファージモデル細胞においてIL-12発現・分泌を亢進し、その菌体中のRNAが主としてIL-12発現亢進に関与すること、またTLR8やMyD88といったシグナル分子を介してIL-12発現を亢進することを明らかにした。本年度はさらに菌体中のRNAについて解析を進め、RNase Aで処理した菌体ではIL-12のmRNA発現亢進は有意に抑制されたのに対し、RNAを18-25 bp程度に切断するRNaseⅢ処理では抑制はみられず、これより菌体の18 bp以下の短鎖RNAがIL-12のmRNA発現亢進に関与していることが示唆された。並行して、昨年度調製した粉末化乳酸菌についても検討を進め、懸濁状態と同様に菌体の18 bp以下の短鎖RNAがIL-12のmRNA発現亢進に関与する結果が得られた。 一方で、乳酸菌によるIL-12発現亢進がin vivoにおいてもみられるかマウスを用いて検討を進めた。Balb/cマウスに乳酸菌を3週間経口投与した後、マウスの小腸、肺などを解析した。その結果、菌体の経口投与によって小腸ではIL-12 mRNA発現が増加する傾向がみられ、肺ではIL-12 mRNA 発現が有意に増加した。さらにIFN-γのmRNA発現量は肺では増加傾向がみられる一方で、小腸では有意な増加が確認された。これより乳酸菌株は、in vivoにおいても一部臓器でIL-12発現を亢進することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
免疫能・生体防御能の亢進に重要な免疫細胞であるナチュラルキラー細胞の活性化を誘導するIL-12に注目し、IL-12発現を亢進する乳酸菌の探索・解析を進めた。昨年度までに、マクロファージモデル細胞を用いてIL-12発現亢進能の高い乳酸菌株を見出し、その菌体成分であるRNAがIL-12の転写活性を亢進するに至る細胞内シグナルメカニズムをおおよそ明らかにすることができた。本年度ではさらに菌体のRNAに注目し、RNaseの種類を変えることで、18 bp以下の短鎖RNAがIL-12のmRNA発現亢進に関与していることを示唆する結果が得られた。さらに昨年度予備検討を進めていたin vivoでの試験について本年度は本格的に実施し、乳酸菌体をマウスに3週間経口投与することによって、小腸や肺ではIL-12及びIFN-γのmRNA発現量が増加傾向あるいは有意な増加がみられ、in vivoにおいても乳酸菌が免疫賦活能を示す可能性が見出された。また乳酸菌を様々な食品に添加しやすくすることを考慮して調製した粉末化乳酸菌についても、懸濁状態同様にIL-12の発現を亢進し、その亢進には粉末化乳酸菌に含まれるRNAが関与していることも見出した。今後は、粉末化乳酸菌によるIL-12発現亢進の作用機序について、懸濁状態の乳酸菌と同様な細胞内シグナル分子を介するのかなど比較しながら検討する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、IL-12の発現を顕著に亢進する乳酸菌株を見出し、主として菌体のRNAによってIL-12発現が亢進していることが明らかとなり、さらに細胞内の制御メカニズムをおおよそ見出した。さらに様々な食品への添加を見据えて調製した粉末化乳酸菌についても、検討を進めている。本年度の結果より、粉末化乳酸菌についても主としてRNAがIL-12発現亢進に関与していることを見出している。しかしながら予備検討の結果、懸濁状態と粉末化した状態では抽出したRNAの状態が異なっていることが示されており、今後は粉末化乳酸菌がどのような細胞内シグナル分子を介してIL-12発現亢進を誘導するのか、懸濁状態と同様にTLR8やMyD88といった分子を介するのかなど比較・検討する予定である。さらに本年度の予備検討で、今回見出された乳酸菌株はIL-12に加えて抗炎症性サイトカインであるIL-10の発現・分泌をも亢進することを新たに見出している。IL-10は行き過ぎた免疫賦活(炎症)反応を抑制するブレーキのような役割をしており、実際IL-12発現を亢進する乳酸菌は同時にIL-10発現をも亢進し、過剰な免疫賦活にならないようにバランスを保っていると考えられている。そこで本年度は、見出された乳酸菌株によるIL-10発現亢進についてもその特性や作用機序などを解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究期間を1年間延長したため次年度使用額が生じた。最終年度として、物品費や英文校正費などを中心に計画的な使用を心掛けたい。
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