研究課題/領域番号 |
20K05894
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研究機関 | 静岡県立大学 |
研究代表者 |
増田 修一 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 教授 (40336657)
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研究分担者 |
島村 裕子 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 助教 (60452025)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 化学物質 / 病原性細菌 / 炎症 |
研究実績の概要 |
環境中には、病原性細菌等の生物学的リスク因子と化学物質等の化学的リスク因子があり、それらは共存していることが示唆される。したがって、両リスクの毒性を評価する上で、複合暴露の影響を考慮することが重要である。 in vitro皮膚モデルおよびBHI培地を用いて、黄色ブドウ球菌(S. aureus)の増殖、S. aureusの病原因子(QS制御遺伝子であるRNAIII、溶血毒素産生関連遺伝子hlbおよびバイオフィルム形成関連遺伝子icaA)の発現に対する化学物質の影響について解析した。皮膚モデルでは、4種の保湿剤および1種の防腐剤を添加した群でコロニー数が増加し、2種の保湿剤および1種の防腐剤を添加した群では減少した。BHI培地では、4種の保湿剤で有意に増加したことから、皮膚モデルとBHI培地では、化学物質の種類により、S. aureusに対する感受性が異なることが示唆された。S. aureusのSEA遺伝子 (sea) 発現量に及ぼす化学物質の影響を調べたところ、保湿剤では、皮膚モデルおよびBHI培地ともにトリエチルヘキサノインの添加により、sea発現量が増加した。防腐剤である酸化亜鉛を添加したところ、皮膚モデルでは減少したが、BHI培地では増加した。S. aureusの病原因子発現量に対する影響を検討したところ、皮膚モデルにおいて、6種の保湿剤、1種の防腐剤、2種の乳化剤で病原因子の発現が増強した。また、保湿剤であるトリエチルヘキサノイン、防腐剤であるフェノキシエタノールは、SEA遺伝子を除く病原因子の発現量が増加した。さらに酸化亜鉛およびミリストイルメチルタウリンNaは、BHI培地で高値を示した。以上の結果より、S. aureusの増殖および病原因子の発現を変動する化学物質が明らかになり、複合暴露による疾病を予防する上で有用な知見を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度の計画では、化学物暴露後のS. aureusおよびその病原因子が変動するか、また宿主に対して免疫システム等の影響について検討する予定であった。病原性細菌と化学物質の複合暴露による毒性変動を評価する上で、in vitro皮膚モデルおよびBHI培地を用いて、S. aureusの増殖、S. aureusの病原因子の発現に対する化学物質の影響について解析したところ、皮膚モデルとBHI培地では、化粧品素材に対するS. aureusの毒性発現に対する感受性が異なることを明らかにした。また、化学物質の種類により、S. aureusの病原因子発現量が変動することも明らかにした。以上の結果より、病原性細菌等の生物学的リスク因子と化学物質等の化学的リスク因子の複合暴露を評価する試験系が確立できたこと、また、化学物質の病原性細菌の毒性に対する影響を明らかにすることができたことから、進捗状況を評価すると、計画通りに順調に進展していると判定できた。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、S. aureusが誘導する表皮の炎症発症に対する化学物質の作用機序を明らかにすることを目的に、ヒトケラチノサイトの炎症関連遺伝子発現に対するスーパー抗原としてのSEAと化学物質の複合暴露の影響について解析する予定である。ヒトケラチノサイトとして、成人男性皮膚から樹立された不死化表皮角化細胞 (ケラチノサイト) 株であるHaCaT細胞を用いる。これまでに、S. aureusで処理したHaCaT細胞においてI、炎症性サイトカインの発現が増加することが報告されており、S. aureus由来分子を包み込んだメンブレンベシクルと呼ばれる膜小胞が菌体外に放出され、様々な宿主細胞に炎症反応を誘発することが報告されていることから、HaCaT細胞の炎症性サイトカインおよびその遺伝子発現量に対するSEAの影響、および、SEAおよび化学物質を複合暴露した際のそれらの変動について解析する。
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