環境中には病原性細菌等の生物学的リスク因子と化学物質等の化学的リスク因子があることから、両者の複合暴露のリスクを評価することは重要である。そこで、黄色ブドウ球菌(S. aureus)の病原因子発現及び炎症関連遺伝子発現に対する複合暴露の影響を解析した。化学物質を添加した皮膚モデルまたはBHI培地でS. aureusを培養し、増殖とSEA等の病原因子の発現に及ぼす影響を解析した。さらに、表皮角化細胞(HaCaT細胞)にSEAと化学物質を複合暴露して、炎症関連遺伝子の発現に及ぼす影響について検討した。人工汗液・指脂液等を添加した皮膚モデルとBHI培地でのS. aureusの増殖に対する化学物質の影響も評価した。その結果、皮膚モデルとBHI培地では、化学物質に対するS. aureusの感受性が異なった。S. aureusのsea発現量に及ぼす化学物質の影響を調べたところ、皮膚モデルで発現量が増加した。S. aureusの病原因子(RNAIII、icaAおよびhlb)発現量に及ぼす化学物質の影響を調べたところ、保湿剤、防腐剤等で発現量がBHI培地に比べ皮膚モデルで増加した。これらの結果より、皮膚モデルとBHI培地では、S. aureusの病原因子発現への化学物質の影響に差異があることが示唆された。HaCaT細胞の炎症関連遺伝子の発現に対するSEAの影響を検討したところ、SEA暴露により、炎症関連遺伝子の発現量が増加した。HaCaT細胞にSEAと化学物質を複合暴露したところ、フェノキシエタノール等の添加により単独暴露時に比べ、炎症関連遺伝子の発現量が増加した。本研究の成果により、SEAと化学物質の複合暴露が炎症誘導をより増強させることを明らかになった。今後、化学物質の新たなリスク評価およびSEAが誘導する各種疾病を予防するための新たな手法の構築が期待される。
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