研究課題/領域番号 |
20K05899
|
研究機関 | 帝塚山大学 |
研究代表者 |
藤原 永年 帝塚山大学, 現代生活学部, 教授 (80326256)
|
研究分担者 |
前田 伸司 北海道科学大学, 薬学部, 教授 (50250212)
綾田 稔 大阪市立大学, 大学院医学研究科, 准教授 (90222702)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 抗酸菌感染症 / 糖脂質 / ミコール酸 |
研究実績の概要 |
近年、養殖魚から抗酸菌が頻繁に分離され、感染魚は腎・脾臓の肥大、粟粒結節を形成して感染後4-10週で死亡する。日本の食文化を脅かす事態となっている。ヒトにブルーリ潰瘍を発症するM. ulceransの近縁抗酸菌であるM. pseudoshottsii, M. shottsii, M. marinum等が主な起因菌と考えられ、類似点があると推測する。国立感染症研究所から分与頂いた魚類由来の抗酸菌M. pseudoshottsii, M. marinumについて、脂質生化学的な解析を行った。抗酸菌に特徴的なミコール酸はサブクラスがα、メトキシ、ケトからなり、結核菌と同様であったが、分子種は炭素鎖長が2-4短鎖であった。Cord factor (trehalose-6,6’-dimycolate) も共通して存在しており、フェノール糖脂質については菌株間で偏在性があった。これら糖脂質分子は、宿主免疫応答に影響することが示唆された。血清中の抗脂質抗原の上昇を測定するためのELISA法を開発するため、抗酸菌感染養殖魚の血清入手、抗魚二次抗体の準備を検討した。 ヒト結核における我々の脂質生化学的基礎研究を応用して、魚類抗酸菌感染症や感染抗酸菌の特徴を明らかにする。養殖魚における抗酸菌感染症の全貌を疫学的観点から理解し、総合的な魚類抗酸菌感染症の現状と予防対策を検討することで、食の安全性に資する基礎的研究成果を取得する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
M. pseudoshottsii, M. shottsii, M. marinumの標準株に加え、魚類感染抗酸菌の臨床分離株を分離収集した。魚類臨床分離株の死菌体をアルカリ加水分解してミコール酸画分を抽出し、メチルエステル化した。精製したミコール酸サブクラスを質量分析(MALDI-TOF/MS, ESI/MS)で分子種の同定を検討した。各菌種は結核菌と同様のサブクラスα, メトキシ, ケトミコール酸を有したが、主要分子種は炭素鎖長が2-4短鎖であった。抗酸菌に特徴的な糖脂質成分を網羅的に解析した結果、cord factorは共通して産生していたが、フェノール糖脂質については偏在性が認められた。宿主と最初に出会うこれら細胞表層成分が宿主免疫応答に影響することが推察される。抗酸菌感染を把握するための迅速診断法として糖脂質抗原に対するELISA法の開発を試みた。既にヒト結核患者における抗糖脂質抗原に対する抗体価の上昇を報告している。この手法を抗酸菌感染魚に応用するため、感染魚の血清入手と抗魚二次抗体の作製を検討した。 コロナ禍で魚血清、二次抗体の入手が遅れている。
|
今後の研究の推進方策 |
得られた魚類感染抗酸菌の臨床分離株の脂質画分を網羅的に解析し、その偏在性を明らかにする。宿主応答する脂質画分を確定するために、ELISA法を中心とした抗糖脂質抗体の存在を検討する。これら抗体の産生は抗酸菌感染の診断や病態把握に有用であり、ヒト結核で得られている知見と比較することで、魚類感染抗酸菌の病原性や診断、予防に有益な情報が得られる。水槽を利用した実験的な抗酸菌養殖魚の解析が可能であると考える。感染魚の血清を利用することも視野に入れる。抗魚二次抗体は市販の抗体、抗魚マウス、ラット抗体の作製を検討して、ELISAの系を開発する。各種糖脂質を測定出来る系が得られた段階で、特徴的な抗酸菌脂質分子の抗体価を評価する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で海外から取り寄せる魚類抗体が入手できなかったため、次年度に繰り越すことにした。
|