研究実績の概要 |
近年、養殖魚から抗酸菌が頻繁に分離され、感染魚は腎・脾臓の肥大、粟粒結節を形成して感染後4-10週で死亡する。日本の食文化を脅かす事態となっている。ヒトにブルーリ潰瘍を発症するM. ulceransの近縁抗酸菌であるM. pseudoshottsii, M. shottsii, M. marinum等が主な魚類抗酸菌症の起因菌で、その脂質生化学的特徴を明らかにした。ミコール酸の分子種は結核菌に比べ炭素鎖長が2-4短鎖で、サブクラスはα、メトキシ、ケトから構成されていた。コードファクター、 マイコラクトンは共通して存在し、フェノール糖脂質は菌株間で偏在性があった。17株の臨床分離株のうち、フェノール糖脂質の欠失した1株、Rf値の異なるフェノール糖脂質を産生した1株が存在した。これら糖脂質分子は、宿主免疫応答に影響することが示唆された。 ミコール酸生合成でmeroミコール酸部分の二重結合合成を制御するmadR遺伝子を欠失したM. marinum変異株を作製し、ミコール酸生合成について検討した。MadR-KO株は二重結合が増加していることを薄層クロマトグラフィーで確認した。MALDI-TOF/MSで質量数から分子種を同定し、MadR遺伝子の機能を解析し、親株よりも広範囲の二重結合をもつ分子種が検出された。 抗酸菌感染を把握するための迅速診断法として糖脂質抗原に対するELISA法の開発を試みた。抗酸菌感染錦鯉の糖脂質を抗原とした脂質抗体の検出法をELISA法で開発した。錦鯉特異的な二次抗体を入手し、測定中であるが、現在のところ、特異的な抗脂質抗体の検出には至っていない。本研究は最終年度であるが、別の機会に引き続き検討したい。 養殖魚における抗酸菌感染症の全貌を疫学的観点から理解し、病原性、感染性を脂質免疫学的観点から明らかにすることで、食の安全性に資する基礎的研究成果を取得できた。
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