研究実績の概要 |
申請者らは、これまでの研究において、いくつかの乳化剤の添加量や種類を調節することで、抗酸化剤の効果を向上できることを示した。しかし検討された乳化剤は、食用添加物ではあったが、ヒトの健康に対して必ずしも安全とは言い切れない[Bonoit et al., Nature, 2015]。本研究では、生体親和性の高い種々の天然型リン脂質を調製し、これを乳化剤として用い、トコフェロール(Toc)の乳化系における局在性をコントロールすることを主な目的とした。 まず、基準となる乳化系として、ダイズ由来ホスファチジルコリン(SoyPC)を乳化剤として使用したo/wエマルションを調製した。酸化基質(油相)は市販のキャノーラ油を用いた。なお、プローブ型超音波装置により、本乳化を行った。調製されたエマルションの粒子径は310 nmであり、30℃・暗所下、静置状態で少なくとも1週間安定であった。また、酸化基質であるキャノーラ油は、α-Toc、β-Toc、γ-Toc、δ-Tocをそれぞれ125 ppm、76 ppm、320 ppm、10 ppm含有していた。この試料を30℃・暗所のもと、マグネチックスターラーを用いて撹拌しながら酸化させた。経時的に油相を抽出し、酸化一次生成物であるヒドロペルオキシド量をDPPP試薬により定量したところ、経時的な酸化を確認した。また、Tocの減少率を調べると、α、β、γ、δの順で減少速度が大きかった。ChemDrawにより各Toc同族体のpKaを調べてみると、それぞれ10.159、9.923、9.923、9.686であり、Hの供与能自体はこの順と考えられた。従って、減少速度はδ、γ、β、αと予想されたが、実際は逆であり、減少速度の大きい順に油相-水相界面付近に存在しているものと考えられ、SoyPCにはそのような作用があると推測された。
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