研究課題/領域番号 |
20K05912
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研究機関 | 福岡女子大学 |
研究代表者 |
石川 洋哉 福岡女子大学, 国際文理学部, 教授 (00325490)
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研究分担者 |
金田 弘挙 九州産業大学, 生命科学部, 教授 (50802493)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 抗酸化成分 / 香気劣化抑制 / 超高速GC分析 |
研究実績の概要 |
本研究では、ラジカル酸化反応に起因する食品香気プロファイルの劣化挙動を最新の香り分析装置により多面的に解析し、食品香気プロファイルの動的変化挙動を解明するとともに、複数抗酸化物併用による食品香気の劣化制御を試み、香気劣化に対して相乗効果を発現する抗酸化物の組み合わせによる極めて効率的な反応制御を試み、科学的根拠に基づく新規香気劣化制御技術を新たに提示することを目的とする。2020年度は、超高速GC(電子嗅覚ノーズHeraclesⅡ)とにおい嗅ぎGCMSを用いて、レモングラス精油サンプルの酸化抑制試験を実施し、各種抗酸化物による各香気成分の劣化抑制挙動を確認した。実験には、α-tocopherol、ロスマリン酸、ケルセチンなど計10種の抗酸化物を用いた。高速GC分析の結果、抗酸化物によって揮発性成分の抑制挙動が異なることが判明した。具体的には、ミリセチン、シトロネラール、ネラール、ゲラニオール、ゲラニアールなど主要5成分の劣化挙動が抗酸化物ごとに異なり、ロスマリン酸、ケルセチンは極めて高い劣化抑制効果を示したのに対して、α-tocopherolの抑制能が弱いことが明らかになった。各香気成分の劣化に対する抑制効果(阻害効果)をIC50値として求めた結果、ロスマリン酸のIC50値は0.5~1.0 mol/mL、ケルセチンのIC50値は0.4~0.8 mol/mLであったのに対して、α-tocopherolのIC50値は3.5~10.9 mol/mLであった。一連の結果は、個々のレモングラス成分に対する劣化抑制効果が抗酸化物によって大きく異なることを示唆するものであった。続いて、抗酸化物の併用による劣化抑制試験も実施し、一部ではあるがロスマリン酸と一部の抗酸化物の併用試験により、香気劣化抑制における相乗効果が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本年度、コロナウイルスの影響により、研究機関である大学への入構制限、研究実施制限などの影響により、研究の開始が遅れたため、研究の進行がやや遅れている状況である。コロナウイルスによる制限が緩和された後は、当初の予定に沿って研究が実施された。本年度は、研究初年度であったことから、ハーブの一種であるレモングラスの香気成分に着目し、まず主要香気成分の同定と種々の酸化反応条件下での香気成分の劣化挙動を超高速GCシステムにより確認した。その後、各種抗酸化物を用いた香気成分の劣化抑制試験を行った。研究開始後は、順調に成果を上げており、レモングラス主要5成分を同定し、それぞれの香気劣化挙動を確認するに至っている。香気成分の劣化挙動確認後は、分子量・構造・性質の異なる各種抗酸化物10化合物を用いて、各種抗酸化物によるレモングラス香気成分の劣化抑制挙動を網羅的に比較し、それぞれの挙動の違いを検討した。結果として、抗酸化物ごとの香気劣化抑制挙動の違いを明らかにすることが出来た。その後、まだ一部ではあるが、各種抗酸化物の組み合わせ(併用)による香気劣化抑制試験の実施も行っている。研究の方向性等は特に修正の必要はないものと判断している。 以上、コロナウイルスの影響により、当初の計画よりも研究の開始時期が遅れた影響は大きいが、その後の研究は進展していることから、結果としては「やや遅れている」と判断している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、2020年度の研究成果を基に、超高速GC分析によるレモングラス香気成分の劣化抑制に及ぼす、各種抗酸化物の併用効果解析を継続して進めるとともに、研究の進展に応じて他のハーブ香気成分(レモンバーム、ペパーミント、ローズマリーなど)に対象を広げることを検討する。さらに、本研究で用いる超高速GCでは、検出された揮発性成分の分析パターンにもとづいて多変量解析等の統計解析が可能である。本装置により、各種抗酸化物による香気劣化抑制挙動をより詳細に検討することが可能と考えられる。具体的には、各種抗酸化物使用時のGC分析結果をもとに、揮発性成分のパターンに応じた主成分分析が可能であり、各種抗酸化物による効果を視覚的にパターン分析することが可能になると考えられる。また、今後は抗酸化成分2成分を同時に使用した場合の香気劣化抑制挙動も詳細に検討する予定である。具体的には、各抗酸化物による香気劣化抑制挙動をもとに、Median effect analysisを行い、相乗効果の「有無」と「程度」を各濃度レベルで詳細に解析することを試みることにより、抗酸化物2成分混合系での、相乗効果の発現挙動を詳細に検討する予定である。一連の解析を通じて、抗酸化物の相乗効果発現における抗酸化物の活性発現要件を明らかにし、相乗効果の発現メカニズムを検討することにより、抗酸化成分間で生じる相互作用の理論的裏付けを試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由)研究成果は着実に得られているものの、コロナウイルスの影響により、大学施設内での研究実施が遅れ、研究内容が制限された影響により、研究の進展が、当初計画したよりも一部遅れているのが現状である。本年度予定していた研究を一部行えなかったことから、経費の一部を繰り越す予定となっている。本年度予定していた研究内容に関しては、次年度継続して実施する予定である。 使用計画)次年度使用額となった金額は、全て物品費として使用予定である。具体的には、超高速GCシステムを稼働させるための消耗部品に使用する予定である。また抗酸化物および、抗酸化試験に用いる試薬一式(エタノール等の溶媒、反応試薬)および関連のピペット、サンプルビン、ガラス器具など一式を次年度に購入し、使用する予定である。
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