本研究は、食品香気プロファイルの動的変化挙動を解明し、複数抗酸化物併用による香気劣化制御を試みることにより、科学的根拠に基づく新規香気劣化制御術を新たに提示するものである。具体的には、本年度も継続して超高速GCとにおい嗅ぎGCMSを用いて、ハーブ香気の劣化抑制試験、特に抗酸化物併用時の効果の解析を中心に効果の確認を行うとともに、本年度はさらに、これまで未実施だったPTR-TOF/MSによるハーブ香気のレトロネーザルアロマ評価を試みた。PTR-TOF/MSは、ヒトの呼気中の香気成分の動的挙動を分析する手法であり、ハーブを熱水抽出したハーブティーをヒトが飲用した際の口中の香りの挙動を検討するものである。本研究では、これまでハーブ香気の劣化を抑制する手段を、網羅的に解析してきたが、対象としている香気成分が、人に対して、どのような「おいしさ」を呈示するのかは十分検証できていなかった。そこで、レモングラスおよび、ローズマリー中の主要香気成分について、PTR-TOF/MSによる評価を行った。その結果、レモングラス中のNeral、Geranialがレトロネーザルアロマでも多いことが確認された。両成分はレモン様香気を呈することから、レモングラスティーの「おいしさ」に大きく寄与していることが確認された。さらに、β-MyrceneおよびLimoneneのシトラス様香気、Linalool・Citronellalの甘いフローラルな香気、Geranyl acetateのオレンジ様香気の口中での挙動がそれぞれ確認された。ローズマリーティーでも同様に各成分の挙動が確認された。本結果は、これまで抗酸化物による劣化抑制試験の対象としてきたハーブ香気成分のヒトが感じる「おいしさ」に対する寄与の高さを明示するものであり、これら成分の香気保持が極めて重要であることを支持する極めて重要な知見と考えられた。
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