近年我が国では、糖尿病、肥満、高血圧など生活習慣病から動脈硬化そして慢性腎臓病に陥り、透析治療を余儀なくされる人が著しく増加しており、国民の健康維持を目指す上で大きな問題となっている。このような疾患の治療・予防としてエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)などのn-3系多価不飽和脂肪酸の臨床的効果が数多く示されており、積極的な摂取が推奨され、食事栄養療法に取り入れられている。しかしながら、これらn-3系多価不飽和脂肪酸の作用機序の詳細はいまだ明らかではない。プロスタサイクリン(プロスタグランジン(PG)I2)は、n-6系必須多価不飽和脂肪酸のアラキドン酸からシクロオキシゲナーゼ経路によって産生され、新血管系の恒常性維持に重要な働きを担う生理活性物質である。我々が作成したPGI2合成酵素遺伝子改変マウスはPGI2を賛成できず、加齢に伴い慢性腎臓病様の腎障害を発症するが、その発症機構は明らかではない。本研究では、PGI2欠乏が惹起する腎血管障害について解析し、① 腎および血管保護作用におけるPGI2とアディポサイトカインとの関連性、② PGI2欠乏による血管の恒常性維持低下がもたらす病態に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の病態改善・予防効果について明らかにすることを目的とする。 本年度は昨年に引き続き、培養細胞系を用い、炎症惹起時の細胞応答に対するn-3系多価不飽和脂肪酸の影響について検討した。マウス近位尿細管上皮細胞に対する影響を調べた結果、予想に反して、n-3系不飽和脂肪酸は炎症マーカーであるMCP-1、COX2、IL-6などの発現を上昇させ、n-6系脂肪酸では認められなかった。また、PGI2受容体アゴニストはこれらの炎症マーカーの発現をさらに上昇させた。
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