研究課題/領域番号 |
20K05920
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
五十嵐 美樹 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 特任准教授 (70340172)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腸管 / 脂肪酸エタノールアミド / 食嗜好 / 摂食行動 / 腸内細菌 |
研究実績の概要 |
本研究は、腸管における栄養素感知による脂肪酸エタノールアミドシグナルの変動とそれに伴う食行動調節機構を明らかにすることを目的としている。令和2年度に得られた結果について以下に述べる。
1.小腸のOEAシグナルと食嗜好について:これまでに、マウスの十二指腸に脂質を投与すると腸管上部のOEA量が増加し、摂食量が低下することを報告している。本研究では、同様条件で腸管に栄養素を投与した後に、脂質と糖質での二瓶選択試験を行った。通常食を与えたマウスでは、0.2kcalの栄養素を十二指腸に投与してもエネルギー投与のないコントロール群と比べて、試験時間内(30分)での総エネルギー摂取に差はなかった。一方で、十二指腸へ糖質、タンパク質あるいはコントロール液を投与しても嗜好性が観察されなかったものの、脂質を投与した場合に限って糖質への嗜好性が観察された。この結果は、腸管が脂質を感知することで、脂質摂取の回避が誘導されている可能性を示している。 2.腸管下部OEAの食行動および代謝調節について:食事由来のオレイン酸が腸管のOEAの前駆体ではあるが、一方でOEAが含まれている食品もある。通常食として使用した餌には、OEAが含まれていることを確認した。そこで、摂取時の管腔内のOEAの濃度を測定したところ、消化管上部では濃度が低いものの、盲腸、大腸、糞便中のOEAが上部に比べて高くなることが分かり、一方で抗生物質投与でその量が低下した。以上のことから、管腔内のOEAの蓄積に腸内細菌が関与している可能性を示唆した。 3.食行動調節における腸管AEAシグナルとその代謝物の役割:AEAやプロスタマイドの測定を行うためにLCMSMSでの測定方法の確立を行った。また確立された方法を評価するために、肥満動物のサンプルを採取した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度は、予定通り計画の35%の試験を終わらせることができた。特に、腸管下部を対象とした実験については、他の試験で得られた結果と合わせて論文投稿準備中である。また、STAMマウスで行う予定であった試験については、コロナ禍の状況で試験の急な中止などの可能性もあったため、作成や長期維持の必要のない肥満マウスに変更して試験を進めた。以上のとおり、試験に使用をする動物を変更したものの、おおむね計画通りに研究が進展している。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、令和2年度に引き続き動物実験を中心に研究を展開するとともに、令和2年度に採取したサンプルの分析と解析を進めていく予定である。また、現在執筆中の論文の投稿を行う。脂質感知で脂質摂取の回避(糖質への嗜好)という興味深い結果を得ることができたため、さらに詳細な食行動の観察やそのメカニズムの解明も行う予定である。また、食依存に関する研究を進めるための設備や方法を整えていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍であったため、まず学会参加予定が大きく変更となった。また、作成予定であった動物の変更を行ったり、試験の状況や実施順番の変更などもあり、当初予定していた委託分析などを翌年に持ち越したたことが次年度使用額が生じた理由である。今年度は、予定していた委託分析を行い、今年度予定していた試験を進める。また、昨年度参加できなかった学会に積極的に参加していく予定である。
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