本研究課題では,乳酸菌の便通改善効果における腸管セロトニン(5-HT)の関与について検討した。R2~3年度に、5-HT合成阻害剤PCPAの経口投与によりマウスの腸管5-HT産生を抑制すると糞便が小型化し、胃腸通過時間が長くなること、これらが加熱殺菌した乳酸菌Lc327により改善され、大腸における5-HT陽性細胞の増加が確認された。R4年度に、加熱殺菌Lc327は、PCPA投与の有無に関係なく大腸における5-HT合成律速酵素TPH-1の発現を増大させ、TPH-2の発現には影響を及ぼさないことが確認された。 ロペラミド投与により便秘状態としたマウスに対し、加熱殺菌Lc327摂取による便通改善と大腸における5-HT陽性細胞の増加傾向がR2~3年度に、大腸におけるTPH-1発現増大がR4年度に確認された。また、ロペラミドにより大腸における5-HTトランスポーター(SERT)の発現が増大し、この増大は加熱殺菌Lc327により有意に低減されることが確認された。加熱殺菌Lc327は大腸における5-HT産生誘導に加え、SERT発現増大を抑制することにより腸管5-HTレベルを高める可能性がうかがえる。 ロペラミド便秘モデルマウスではグリア線維性酸性蛋白質(GFAP)、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)の発現が増大していたことから、平滑筋弛緩作用を有するNOの腸管グリア細胞からの産生が亢進し、蠕動運動の低下につながることが推察された。また、ロペラミド便秘モデルマウス大腸筋層周辺ではc-kit陽性細胞の減少がみられ、蠕動運動のペースメーカーとして働くカハールの介在細胞の減少が示唆された。ロペラミドによるこれらの影響は加熱殺菌Lc327摂取により抑制され、便通改善効果へ寄与しているものと推察された。
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