研究課題/領域番号 |
20K05926
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
井倉 則之 九州大学, 農学研究院, 教授 (30260722)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | エマルション / 食品 / 香気 / ゲル / テクスチャー |
研究実績の概要 |
2021年度は、昨年度得られたエマルションおよびそのゲルへのキサンタンガム、アラビアガムおよび寒天の添加による影響に加え、他の成分の添加による影響について検討を行った。添加物としてはカルボキシメチルセルロース、ペクチン、あるいは由来の異なるデンプンなどの多糖類を加えた。さらに大豆タンパク質(分離大豆タンパク質)を添加した時の影響についても検討を行った。 カルボキシメチルセルロースおよびペクチンをエマルション連続相に添加し、エマルションの粘度を変化させた時のエマルションからの香気成分放散挙動を検討した結果、香気成分の平衡時濃度および放散速度は香気化合物の水-気体間の分配率との間に相関があることが示された。また放散速度は連続相粘度依存性があり、粘度増加に伴う香気成分放散速度の減少率もまた水-気体間の分配率と相関があることが示された。 また、エマルションの連続相に寒天を加えゲル化させるときに、同時に由来の異なるデンプンあるいは大豆タンパク質を添加した時の影響についても検討を行った。その結果、デンプン濃度および分散相含有率の増加に伴い、デンプンの種類により異なる物性のエマルションゲル得られ、デンプン濃度、分散相含有率の増加に伴いエマルションゲルの硬さは減少、凝集性と付着性は増加することが示された。特にバレイショデンプン添加ゲルは嚥下食の許可基準内で作製できる可能性が示された。 大豆タンパク質を添加したところ、タンパク質濃度の増加に伴いエマルションゲルの硬さが減少したのに対し、香気成分放散速度はいずれの香気成分においても増加した。さらに大豆タンパク質添加エマルションゲルのpH依存性についても検討したところ、pHの低下に伴い、エマルションゲルの硬さが増加し、香気成分放散速度は低下する傾向があった。今後、他のタンパク質や塩類添加による影響など検討する必要があると考えれらる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
エマルション作成において、連続相への添加物として、昨年度行ったキサンタンガム、アラビアゴム、寒天の他にカルボキシメチルセルロース(CMC)、ペクチン、由来の異なるデンプンなどの多糖類に加え、大豆タンパク質などのタンパク質についても検討を行い、エマルション物性ならびにそのエマルションを用いたエマルションゲルの物性についても検討を行った。 新たな知見として、まず、エマルションにCMCあるいはペクチンを添加した時のエマルションの粘度変化と香気成分放散挙動を明らかにした。CMC添加による粘度の増加に伴い、香気成分放散速度は減少する傾向があった。これは昨年度得られたキサンタンガムおよびアラビアゴム添加と同様の結果となった 次に寒天エマルションゲルに由来の異なるデンプンを添加したところ、サツマイモ、トウモロコシおよびバレイショデンプンでは添加デンプン濃度の増加により硬さが有意に減少し、嚥下食に適した物性となることがわかった。エマルションの分散相含有率もデンプン添加寒天エマルションゲルの物性に影響を及ぼし、サツマイモ、トウモロコシおよび小麦デンプンは分散相含有率の増加に伴い硬さが有意に減少していたが、バレイショデンプンでは硬さの変化は認められなかった。このことからバレイショデンプン添加は特に嚥下食作成に有用であることが示された。 さらに寒天エマルションゲルに大豆タンパク質を添加したところ、大豆タンパク質濃度の増加に伴い、硬さは減少しているのに対し、このゲルからの香気成分放散速度は増加しており、より香り立ちが高くなることが示唆された。一方、大豆タンパク質添加エマルションゲルの物性や香気成分放散速度はpHに依存しており、pHの低下に伴い、硬さの減少および香気放散速度の増加が認められた。 以上、多くの新規知見が得られていることから概ね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度および2021年度にかけて、エマルションおよびエマルションゲルの構成成分が物性および香気成分放散挙動に大きな影響を与えること、また嚥下食などの物性基準が厳しい食品への適用にも有用であることなどを示してきた。2022年度は過去2年間で得られた結果をもとに、風味に影響を与えるような香り以外の成分(塩類、タンパク質)が物性および香気成分放散挙動に影響を及ぼすのかを明らかにする。すなわち、大豆タンパク質以外にも、乳由来タンパク質、卵由来タンパク質などの添加によるエマルションゲルの物性および香気成分放散挙動についても検討を行う。またタンパク質は塩類の種類ならびに濃度(イオン強度)の影響を大きく受けるため、塩類添加の影響についても検討を行う。 さらに加工工程の熱履歴の影響などについても検討を行う。デンプンの糊化や老化の影響について、2021年度は良い結果を得ることができなかったため、2022年度も引き続き検討を行う。 また風味成分を添加することによって、実際の食品としての評価についても検討を行う。すなわち実際にエマルション ゲルを食用に適した状態で作製し、官能検査によりこれまで得られた機械的評価と官能評価との相関について検討を行うことによって、新規ゲル状食品としての開発に寄与させる。
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