研究課題/領域番号 |
20K05928
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研究機関 | 鹿児島大学 |
研究代表者 |
侯 徳興 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 教授 (90305160)
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研究分担者 |
坂尾 こず枝 鹿児島大学, 農水産獣医学域農学系, 助教 (40713285)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アントシアニン / アントシアニン代謝産物 / 非アルコール性脂肪肝 / 脂質異常症 / 腸内細菌叢 |
研究実績の概要 |
初年度は動物実験でアントシアニンが腸内細菌叢を調整し、過剰栄養で引き起こした脂質代謝異常及び酸化損傷を改善する効果が認められた。2年目はこれらの効果に関するアントシアニンの作用機構を明らかにするため、アントシアニン(BA)、アントシアニンの主要な代謝産物PGA及びPCAをそれぞれの比例で過剰栄養食(WD)に添加し、動物実験を実施した。動物実験は、国立大学法人鹿児島大学における動物実験に関する規則(承認番号: 第 A19011号)に従い実施した。具体的に、購入した5 週齢のC57BL6/Nマウスは、23℃、12時間明暗周期、飼料及び水は自由摂食とし3か月間飼育した。実験終了時、各群マウスの血液、肝臓及び糞便等を回収し、研究解析に使用した。その結果、①脂質改善及び肝機能保護効果:WDにより増加した体重・精巣上体脂肪重量・肝臓重量・肝臓脂肪率についてPCA群を除いて他の群は顕著に低減させた。また、WDにより増加した血中脂質(T-Cho、LDL)、肝機能損傷指標(AST、ALT)の値はすべての群が顕著に低減させた。②体内抗酸化増強効果:WDにより上昇した肝脂質酸化(TBARS)及び肝線維化指標(α-SMA)の値はすべての群が顕著に低減させた。③腸内細菌叢の改善効果:WDにより増加した肥満関連指標であるF/B比を顕著に低減させたが、PGAやPCAは、BAに較べると特定の腸内細菌への影響は低かったものの、腸内細菌叢の菌間ネットワークを大きく変化させた。 これらのデータにより、通常摂取されたアントシアニンはほとんど大腸内に到達し、PCAやPGA等の代謝産物へ分解される。これらの代謝産物はさらに宿主の腸内細菌に直接または間接的に作用し、過剰栄養による脂質代謝異常を改善することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2年目、アントシアニンの代謝産物を解析し、主要な代謝産物はphloroglucinolcarboxaldehyde(PGA)及びprotocatechuic acid (PCA)であることを明らかにし、これらの代謝産物を用いて再度動物実験を行った結果、同様にマウスの腸内細菌に直接または間接的に作用し、過剰栄養による脂質代謝異常を改善した結果が得られた。その結果を2022年6月に開催される第76回日本栄養・食糧学会大会で発表する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
初年度は動物実験でアントシアニンが腸内細菌叢を調整し、過剰栄養で引き起こした脂質代謝異常及び酸化損傷を改善する効果が認められた。2年目、アントシアニンの代謝産物を解析し、主要な代謝産物はphloroglucinolcarboxaldehyde(PGA)及びprotocatechuic acid (PCA)であることを明らかにし、これらの代謝産物を用いて再度動物実験を行った結果、同様に過剰栄養による脂質代謝異常を改善したことを示した。特に、A. muchiniphila、B. acidifaciens、Parabacteroides等の腸内細菌の相対数には大きな変化が見られた。これらの結果からアントシアニン、アントシアニンの主要な代謝産物PGAやPCAはこれらの腸内細菌の増殖に直接的に影響を与えていた可能性が示唆された。今後は、腸内細菌体外嫌気培養の手法を導入し、アントシアニン及びアントシアニンの主要な代謝産物PGAやPCAを直接的にこれらの腸内細菌培地に添加し、A. muchiniphila、B. acidifaciens、Parabacteroides等の腸内細菌に対する直接的な効果を明らかにする。また、Piphilline及びKEGGによる腸内細菌叢保有遺伝子の予測解析を行い、アントシアニン及びアントシアニンの代謝産物による腸内細菌叢の全体変化も明らかにする。これにより、アントシアニンと腸内細菌叢の相互作用、それにより生じる生理機能を同時解析することによって、アントシアニンの低生体利用率と高機能性のパラドックスの解明に資する総合的な知見が得られると期待できる。
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