研究課題/領域番号 |
20K05935
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大塚 由紀子 東京大学, 生産技術研究所, 助教 (00251463)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 赤外分光 / 米デンプン / 老化 / 米ゲル / 水素結合状態 / 結合水 / 自由水 / 水分率 |
研究実績の概要 |
米ゲルはグルテンフリーの食材として注目されているが、米デンプンの老化という問題点がある。本研究では、赤外分光を用いて米ゲルの乾燥特性を測定し、水分子の水素結合状態に着目して吸光度スペクトルを解析することにより自由水、結合水の構造を求め、保水性について検討を行っている。現在、老化による米ゲルの保水性の劣化について定量的な評価を行うとともに老化のメカニズムの解明を試みている。なお本研究では、水素結合が水分子のOH伸縮運動に及ぼす影響に基づいて、水分子をS0(影響を受けない)、S1(影響を受けるOHが1本)、S2(影響を受けるOHが2本)に分類し、この3種類の水分子に着目して乾燥過程における水の構造変化について調べており、現在までに得られた結果および知見のうち、特に重要と考えられるものは次の通りである。 (1)老化の起こっていない米ゲルの場合、水分率30%以上では自由水(S0:S1:S2 =1:2:2)が支配的であり、水分率が10%以下になると結合水(S0:S1:S2 =2:4:1)が支配的になる。 (2)老化が進むにつれて米ゲル中に含まれる自由水が失われやすくなり、より高い水分率で結合水が支配的になる。例えば4か月以上冷蔵した米ゲルでは水分率70%程度で自由水が顕著に減り始め、水分率40%以下の領域で結合水が支配的になる。 これらの結果により、老化による保水性の低下が実験的に解明され、老化という現象に自由水と結合水が深い関わりをもっていることが明らかになった。現在、水のネットワーク構造に大きく関わる分子種であるS1、S2に着目し、老化の程度の異なるサンプルについて一定の水分率におけるS1,S2の全体の水に対する割合を調べるという方法を用いて、老化に対する定量評価を試みている。従来の評価法には、高度な技術が必要、再現性が悪い等の欠点があり、新たな評価法を確立することは非常に重要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
2020年度の研究実施計画においては、老化現象の起こっていない米ゲルに関して、 (1)FTIRによる赤外分光を用いて米ゲル膜の乾燥特性を測定し、さらに水素結合状態による水分子の分類(S0, S1,S2の3種類の分子種が存在)に基づき、測定により得られた吸光度スペクトルから米ゲル中の自由水、結合水の構造および含有率を求めること (2)示差走査型熱量計(DSC)を用いた融解熱測定により、試料中の凍結する水の割合を求め、自由水と凍結水の関係を求めること が予定されており、実際にこの計画通りの実験/解析が行われた。その結果から、①高い保水性をもつゼラチンの場合とは異なり、米ゲル中には強い結合水は存在せず、S0, S1,S2の比がほぼ2:4:1の弱い結合水が存在すること、②米ゲルの場合、凍結水、自由水の水全体に対する割合はほぼ一致すること等、米ゲル中の水の構造に関する特性が明らかになった。さらに、当初の予定では2021年度に実施する予定であった“米ゲル中のデンプンの老化プロセスを米ゲル中に含まれる水の構造の変化という観点から探求する”という計画についてもすでに着手しており、乾燥過程におけるS0, S1,S2の比が老化の状態を反映していると推定される実験結果が得られている。このように、老化の起こっていない米ゲル中の水の構造や特性に関する研究を遂行しただけでなく、老化した米ゲルに関してもすでに研究を開始し、老化のメカニズムに関する重要な知見を得つつあること、老化の定量測定に関する検討をはじめていることから、研究は順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は、我々の赤外分光を利用した新たな手法を用いて、水の構造変化に着目し、米ゲル中の米デンプンの老化の定量評価および老化のメカニズムの探求を行う。さらに、示差走査型熱量計(DSC)を用いて“老化した米デンプンの再糊化の量から老化の程度を見積もる”という従来から用いられている老化の評価法による測定を行い、赤外分光により得られた結果と比較検討する。また、2021年度購入予定の水分活性計を用いて、老化したサンプルと老化していないサンプルの水分活性の違いを求めて老化が保水性に及ぼす影響を調べ、赤外分光を利用した方法から得られた自由水、結合水の変化と比較検討を行う予定である。 我々の新たな手法は、FTIRによる赤外分光を用いて米ゲルを測定し、4500~5500㎝-1の周波数領域における水の吸光度スペクトルのピーク分解を行うことにより、水素結合状態の異なる水分子(S0,S1, S2)を識別し、その乾燥特性から米ゲルの老化の程度を評価するというものである。米ゲルの老化のメカニズム、および定量評価に関する研究は、すでに2020年度の後半から開始しているが、老化の無い場合はスピンコートにより作製した200ミクロン程度の膜を基板からはがしてFree-standingで測定できるのに対し、老化を伴う場合は、基板からの剥離により膜が壊れてしまい、Free-standingでは測定できないことがわかった。そのため、表面をプラズマ処理したCaF2窓の上に米ゲル膜を作製することになり、現在、一様な膜を再現性良く作製する条件を模索中である。米ゲル膜の最適な作製条件が得られた後、1週間ごとにFTIRによる測定およびDSC測定を行い比較検討するとともに、老化による保水性の劣化について水分活性計を用いて定量評価を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの(COVID19)流行のため、当初予定していた食品科学工学会第67大会が中止になり、旅費を使用しなかった。
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