米ゲルはグルテンフリーの食材として注目されているが、米デンプンの老化という問題がある。本研究では、近赤外分光を用いて米ゲルの乾燥特性を測定し、吸光度スペクトルを解析することにより、米ゲル中の水の構造の変化に着目して米デンプンの老化による保水性の劣化について検討した。 我々の実験ではプラズマ処理により表面の親水性を高めたCaF2窓板上に米ゲルを塗布して厚さ0.1mm程度の膜を作製し、試料を窒素雰囲気中で乾燥しながらFTIRによる赤外吸収測定を行なった。得られた吸収スペクトルの4500-5500cm-1の周波数領域における水分子の水素結合状態に着目して吸光度スペクトルを解析し、米デンプン中に含まれる水分子をOH基の伸縮振動に影響を及ぼす水素結合の本数により、S0(水素結合なし)、S1(1本)、S2(2本)の3種類の分子種に分類した。これらの分子種が水全体に占める比率を求めた結果、自由水(自由に動ける水)、結合水(デンプンに束縛されている水)が各々固有の比率(自由水の場合はS0:S1:S2 =1:2:2、結合水の場合はS0:S1:S2 =2:4:1)を持つことから、自由水、結合水を識別できることを見出した。さらに解析の結果から自由水、結合水の量を見積もり、老化の程度の異なる米ゲルの乾燥特性を比較した結果、(1)老化が進むにつれて米ゲル中に含まれる自由水が失われやすくなること、(2)老化の程度が大きい米ゲルほど、結合水の量が多いこと、(3)示差走査型熱量計で測定した再糊化量と老化によって増えた結合水の量とを比較した結果、自由水が枯渇する瞬間の結合水の老化による増量分は、老化の程度と比例関係にあることが実験的に解明された。本研究の成果により、老化のメカニズムに関する有益な知見が得られただけでなく、近赤外分光を用いて結合水の量から老化の量を見積もるという定量的な老化測定の新たな手法を見出すことにも成功した。
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