研究実績の概要 |
IAPは,脂質の吸収や重炭酸塩の分泌および十二指腸表面のpH調節等の機能に加え, 近年では腸管lipopolysaccharides (LPS) の脱リン酸化作用を介した代謝疾患改善効果が注目されている。全粒粉にはIAPの基質であるLPSおよびフィチン酸が比較的高濃度で含まれることが知られている。本年度はこれらの成分を介して,全粒粉の摂取が小腸IAP活性を誘導しうるか評価を行った。AIN-76組成に準じた飼料を対照飼料 (CS, corn starch群)とした。また, 対照飼料中のコーンスターチとの置き換えで小麦全粒粉 (WF群), 発芽玄米粉 (RF群) を60%, 大麦全粒粉 (BF群) を30%添加した飼料を設けた (大麦全粒粉は高濃度の-グルカンが含まれているため飼料摂取量の極端な低下が生じない添加量にとどめた)。なお, 被験素材の化学分析の結果をもとに食物繊維, タンパク質, 脂質の含量をそれぞれセルロース, カゼイン, コーンオイルの添加量を調節することで各飼料の栄養成分含量を可及的に一致させた。空腸部では対照との二群比較を行った場合, 最も高濃度のLPSを含む発芽玄米粉を添加したRF群では対照に比べ43%程度、IAP活性は有意な上昇が認められた。また, この結果は誘導型のIap-ⅡのmRNA発現量にも反映されており, RF群では対照に比べ50%程度の発現上昇が認められた。しかし, 血清中IAP活性およびLPSを基質として用いた場合の小腸粘膜IAP活性はいすれの群間にも差はなかった。したがって,発芽玄米粉摂取時には腸管IAP活性が誘導されるものの, 血中IAP活性の亢進や生理的条件下におけるLPSの脱リン酸化を介した無毒化促進といった, 生理的意味を持つには至らないことがわかった。一方で,全粒粉の摂取は糞便中のアルカリフォスファターゼ活性を4倍程度増加させた。この増加は,小腸での増加に比べ程度が大きいため,腸内細菌に由来する可能性がある。
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