研究課題/領域番号 |
20K05938
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
佐々木 大介 神戸大学, 科学技術イノベーション研究科, 特命助教 (00650615)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 腸内細菌 / 腸内フローラ / マイクロバイオーム / 分離培養 / プロバイオティクス / 有用菌 / 酪酸産生菌 |
研究実績の概要 |
個人ごとに異なる腸内細菌の種類やその代謝物がヒトの健康や疾患と深く相関していることが明らかになってきており、テーラーメイドな善玉菌が必要な時代が来ると予想される。それに先んじて、我々の研究グループが所有する in vitroヒト腸内細菌叢培養モデルの培養液を分離源として使用すれば、テーラーメイド善玉菌を取得する新規技術を開発できるという着想が、本研究のポイントである。本研究の成果は近未来的に、健康者の健康維持を目的とした善玉菌を提供するために必要な技術要素となることが予想される。さらに、各種疾患の改善・治療法確立のための一つのツール開発として、有用腸内細菌の分離法を確立することは非常に価値がある。 今年度は、引き続き有用腸内細菌分離法の構築を進めた。具体的には、有用菌候補を多く保有している健康者糞便をin vitro培養し、嫌気無機合成培地に培養後の培養上清を添加した新規培地を考案し、さらに短鎖脂肪酸などの化合物を別途添加した数種の培地を用意した。それらを用い、同一人物の糞便検体を植菌源とした集積培養・ロールチューブによるコロニーの分離を実施し、300種以上の分離菌株を取得することができた。16S rRNA 遺伝子を解読することで菌種の同定を行ったところ、Bacteroidetes門およびFirmicutes門に属する細菌が多く、次いでActinobacteria門やProteobacteria門細菌が少数得られた。中でもヒトの腸管環境の健全化や免疫賦活・調整に影響を与えていると考えられる酪酸を産生する細菌を数種、分離培養することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
腸内細菌培養に要求される嫌気培養による集積培養を3回・コロニー形成を1回、連続的に実施したため、それなりに期間を要したが、年度内に分離菌株のシーケンスまで実施することができた。具体的な方法としては、有用菌候補を多く保有している健康者糞便をin vitro培養し、嫌気無機合成培地に培養後の培養上清を添加した新規培地を考案し、さらに短鎖脂肪酸などの化合物を別途添加した数種の培地を用意した。それらを用い、同一人物の糞便検体を植菌源とした集積培養・ロールチューブによるコロニーの分離を実施し、300種以上の分離菌株を取得することができた。それぞれの分離菌株の16S rRNA 遺伝子を解読することで菌種の同定を行ったところ、Bacteroidetes門およびFirmicutes門に属する細菌が多く、次いでActinobacteria門やProteobacteria門細菌が少数得られた。中でもヒトの腸管環境の健全化や免疫賦活・調整に影響を与えていると考えられる酪酸を産生する細菌を数種、分離培養することに成功した。したがって、おおむね順調に研究が進行し、今後の準備を整ったと考えている。 今後も引き続き、更なる分離作業を進めるとともに正確な分離株の単一化とその生育試験を行い、有用性を評価する予定である。また、新たな有用菌保持者を選出して新しいロットの分離培養を始める。予備的な糞便の菌叢解析は実施済みであり、次世代シーケンスの解析結果を元にして、次の分離源の選出が完了している。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度は、分離培養に成功した有用菌候補株(酪酸産生菌を予定)を用い、これを健康者や疾患患者の糞便培養モデルにいくつかの菌体量で添加し、酪酸産生量の変化とin vitro培養後の菌叢への定着性・残存性について、次世代シーケンサーを用いた16S rRNA 遺伝子の構造解析から明らかにする予定である。さらに、同菌種の市販プロバイオティクスや標準菌株の添加試験の結果を比較し、テーラーメイド(個人ごと)の分離菌株を摂取する有効性を証明する。また、本研究計画で構築した分離培養法による酪酸産生菌が新種であった場合は、適宜、速やかに寄託および特許・論文化を遂行する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次世代シーケンスに必要な高額の解析キットを、他のプロジェクト予算のサンプル解析と共有したために、使用額が減少した。次年度に予定通り使用する。
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