個人ごとに異なる腸内細菌の種類やその代謝物がヒトの健康や疾患と深く相関していることが明らかになってきており、テーラーメイドな善玉菌が必要な時代が 来ると予想される。それに先んじて、我々の研究グループが所有する in vitroヒト腸内細菌叢培養モデルの培養液を分離源として使用すれば、テーラーメイド 善玉菌を取得する新規技術を開発できるという着想が、本研究のポイントである。本研究の成果は近未来的に、健康者の健康維持を目的とした善玉菌を提供する ために必要な技術要素となることが予想される。さらに、各種疾患の改善・治療法確立のための一つのツール開発として、有用腸内細菌の分離法を確立することは非常に価値がある。 昨年度からヒトの健康維持への寄与が高いことが指摘されている酪酸産生菌の取得を目的とした分離培養を実施した。in vitroヒト腸内細菌叢培養モデルの糞便培養によって酪酸産生菌グループが増えやすい被験者を選抜して、その培養液を分離源として使用した結果、300種以上の分離菌株を得た。それらの16S rRNA 遺伝子を解読して菌種の同定を行ったところ、未培養菌株の可能性があるRuminococcaceae科が3株、Acidaminococcus属が1株得られ、高確率に目的の腸内細菌を獲得できる培養法の開発に成功した。これらの菌株は単独培養時に酪酸を産生した。ついで、これらの株を複数人のin vitroヒト腸内細菌叢培養モデルに添加して影響評価を行ったが、酪酸産生の増加は検出されなかった。そこで、酪酸産生菌が増加する報告のあるプレバイオティクス(イヌリンやフコイダン等)と合わせて添加して培養したが、顕著な酪酸産生の増加は観察されなかった。引き続き、新規分離した酪酸産生菌のプロバイオティクスとしての性能を評価を続け、特許や投稿論文を目指す予定である。
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