FAT3は非定型カドヘリンファミリーに属する膜タンパク質で、神経細胞の形態や平面内細胞極性などに関わることが示唆されている。これまで申請者は、プリン代謝中間体ヒポキサンチン処理によって、ミクログリア細胞株BV2のFAT3発現が上昇し、突起の伸長に寄与することを見出してきた。本課題では、in vitro培養系で見出した現象が、生体内でも観察されるか検証し、新生仔期の脳におけるFAT3の新たな役割解明を目的とした。まず、in vivoでの影響を検証するため、FAT3ノックアウトマウスを作製して、ミクログリア形態やシナプス形成に及ぼす影響を解析した。その結果、FAT3ノックアウトマウスでは、in vitro培養系とは異なり、出生後早期において、ミクログリア突起の分岐や伸長が促進されることが示唆された。また出生後、約20日前後で、野生型マウス脳と比べて、FAT3ノックアウトマウスでは、興奮性シナプスの数が有意に減少していた。一方、シナプスの数に変化は見られるものの、オープンフィールドを用いた行動実験では、野生型と比較して大きな差は認められなかった。以上の結果から、FAT3は、行動には影響を与えないものの、新生仔期ミクログリアの適切なタイミングでの分化成熟に関わる新たな因子であることが示唆された。次に、FAT3がどのように形態やシナプスを制御するか検証した。FAT3の細胞内ドメインには、Ena/VASPドメインやPDZドメインなど、タンパク質相互作用に重要なドメインが複数存在する。そこで、FAT3の細胞内領域と結合する因子を探索し、プリン代謝を制御する酵素がFAT3と結合することを見出した。現在、この酵素の活性や機能制御にFAT3が関与するか検証を進めている。
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