研究課題/領域番号 |
20K05952
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
大橋 一登 群馬大学, 生体調節研究所, 助教 (30775862)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | トリプトファン |
研究実績の概要 |
タンパク質構成アミノ酸は一般に20種類で、これらは生体に必須の化合物である。しかし、必要最低限のアミノ酸を摂取しても、摂取するアミノ酸に極端な偏りがあると生育が抑制される。また、近年では血中のアミノ酸バランスの変化はがんや生活習慣病の未病状態の指標として期待されている。このように、アミノ酸バランスは重要であると考えられるが、その維持に必要な分子機構は全く不明である。 これまでに研究代表者は真核生物のモデル細胞である出芽酵母で、Trpを過剰に与えると細胞増殖が抑制されることを見出し、過剰なTrpの分解に重要な経路を報告した (Ohashi et al., Sci. Rep., 2017)。また、過剰なTrpへの応答に細胞膜や細胞壁へのストレス応答に必要なCell Wall Integrity (CWI) 経路が必要であることを示した (Ohashi et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 2021)。過剰なTrpの感知は、アミノ酸バランスの異常を感知する仕組みの一端と考えられることから、その分子機構と存在意義の解明に取り組んだ。CWI経路の上流に着目し、研究を進めた結果、過剰なTrpへの応答に必要な分子を新たに見出した。さらに、細胞内Trpの増加とこの分子を介した応答が必要と考えられるストレス条件も見出した。この条件をもとに、過剰なTrpを認識する分子 (Trpセンサー) の2次スクリーニングを行い、15の候補遺伝子を見出した。この中に、Trpセンサーが存在すると期待されることから、その特定とその詳細な仕組みの解明を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
生体内のアミノ酸組成はある程度一定に保たれており、アミノ酸バランスは重要であると考えられるが、その維持に必要な分子機構は全く不明である。 研究代表者は真核生物のモデル細胞である出芽酵母で、Trpを過剰に与えると細胞増殖が抑制される現象に着目し、アミノ酸バランスの異常を感知する分子機構とその存在意義の解明を目指している。これまでに過剰なTrpへの応答には、細胞膜や細胞壁へのストレス応答に必要なCell Wall Integrity (CWI) 経路が必要であることを示している (Ohashi et al., Biosci. Biotechnol. Biochem., 2021)。そこで、CWI経路の上流に着目し、研究を進めた結果、過剰なTrpの感知に必要な分子を新たに見出した。また、細胞内Trpの増加とこの分子を介した応答が必要と考えられるストレス条件を特定し、この分子の役割を明らかにした。また、これらの結果からTrpの増加が低分子のシグナルとして機能していることが示唆された。 これらの結果は、アミノ酸バランスの異常を感知する分子機構の一端を明らかにし、その意義を示したといえる。なお、過剰なTrpを認識する分子 (Trpセンサー) の同定には、当初予定していた方法では不十分であった。そのため、Trpセンサーの同定には予定よりも時間を要している。しかし、細胞内Trpの増加を介した細胞シグナルの存在が示唆されたことから、その応答が必要なストレス条件を用いたスクリーニングで、Trpセンサーの候補遺伝子を15に絞り込んでおり、研究は着実に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
研究代表者は真核生物のモデル細胞である出芽酵母で、Trpを過剰に与えると細胞増殖が抑制される現象に着目し、アミノ酸バランスの異常を感知する分子機構とその存在意義の解明を目指している。これまでに過剰なTrpの感知に必要な分子をいくつか見出している。また、これらの分子の中から、外部環境変化によるストレスへの応答に必要な分子を特定しており、このストレス応答において細胞内Trpの増加が低分子のシグナルとして機能している可能性が示された。さらに、このストレス条件を用いて、増加したTrpを認識する分子 (Trpセンサー) を同定するため、Trpセンサー候補分子の2次スクリーニングを行い、15の候補遺伝子を見出した。今後は、これらの遺伝子欠損株で、上記のストレス応答において抑制される細胞内シグナルが抑制されないことをウェスタンブロットで確認する。この確認ができた遺伝子について、そのタンパク質の立体構造もしくはAlpha Foldによる予測構造を用いて、Trpとの結合可能性をドッキングシミュレーションなどによって検証する。なお、Trpとの結合が予想されたタンパク質から優先的に精製タンパク質を調製し、精製タンパク質とTrpとの結合を生化学的に検出する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
目的の達成に、実験の変更が必要となり、想定以上に時間を要した。また、それに伴い、実験の優先順位が変わったことにより、次年度使用額が生じた。今後は、当初から予定していた、目的の達成に必要な実験とその成果報告に次年度使用額を使用する予定である。
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