研究課題/領域番号 |
20K05954
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
長尾 翌手可 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (30588017)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | tRNA / 翻訳 / タンパク質合成 |
研究実績の概要 |
前年度では翻訳中ペプチジルtRNAの抽出法を確立させたが、レポーター遺伝子のテストコドンを解読したペプチジルtRNAのみを精製する方法を確立することができなかった。そのため、今年度は一部方針を変更し、各アミノ酸のコドンを1種類に限定したレポーター遺伝子を大腸菌細胞内または無細胞翻訳系で発現させ、抽出したペプチジルtRNAのtRNA部分を配列解析することによってアイソデコーダーの使用頻度を算出する方法の確立に取り組んだ。レポーター遺伝子は3種類設計した。また、前年度に課題となったペプチジルtRNA以外のtRNAの非特異的な混入を解決する方法として、選択的デアシル化とデアシルtRNAの3’末端処理を組み合わせることによってペプチジルtRNAのみをアダプターにライゲーションする方法を試行錯誤し、最終的にその確立に成功した。これらの方法を用いて、上記のレポーター遺伝子を大腸菌細胞または無細胞翻訳系によってそれぞれ発現させ、ペプチジルtRNAを抽出し、NGS解析によって各tRNAの定量解析を行った。この時、tRNAプール中の各tRNAの存在量比を測定するため、未処理の全tRNA画分についても定量解析を行っている。その結果、無細胞翻訳系では、特定のアイソデコーダーtRNAにしか読まれないコドンを有したレポーター遺伝子ではそれぞれ対応するtRNAの相対量が顕著に高く検出されたことから、実験系が機能していることが証明できた。また、複数種のアイソデコーダーtRNAによって読まれるコドンについては、アイソデコーダーtRNAの使用頻度はtRNAプール中の存在比とは異なり、コドン種によって特徴があることが分かってきた。一方、大腸菌細胞のデータではそのような差が見られなかった。これはレポーター遺伝子の発現量が内在遺伝子の発現量を凌駕できずそれら由来のペプチジルtRNAによるものと考えられた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
上記の通り、今年度から一部方針を変更したため、実験系の構築について時間を費やすことになった。特に、アミノアシルtRNAの選択的デアシル化法については、できるだけペプチジルtRNAのデアシル化を防ぎながらアミノアシルtRNAを完全にデアシル化する必要があるため、その反応についての条件検討を入念に繰り返し行った。また、その確認についても質量分析法とノーザンブロッティングの二通りの方法で行わなければならず、本方法の確立に時間を要することの原因となったと考えている。しかし、変更した方針では、一つのレポーター遺伝子に異なったアミノ酸種のテストコドンを同時に導入しそれぞれのアイソデコーダーtRNAの使用頻度を検証することができるため、これまでのテストコドンを一つ一つ検証しようとしていた方法よりも効率よく解析でき、今後予定している実験についてはその進捗を早めることを期待している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度に行った各コドンについてのtRNA使用頻度解析はまだプレリミナリーな結果であるため、今後は先ずその再現性をとっていく予定である。また、無細胞翻訳系において実験系が非常に良く機能していることから、今後は主に無細胞翻訳系を用いて実験を進めていく。具体的には、tRNA修飾とtRNA使用頻度の関係性を探索するため、特定のtRNA修飾酵素欠損株から抽出したtRNA画分を用いて、上記3種類のレポーター遺伝子を無細胞翻訳系で発現させ、ペプチジルtRNAの定量解析を行い、野生型tRNAの場合とどのようにその使用頻度が異なるかについて解析を行う予定である。その結果はtRNA修飾の機能について新しい知見を提供できるものであると期待している。並行して、大腸菌細胞内でのtRNA使用頻度解析の実現に向けて、レポーター遺伝子が内在遺伝子の発現量を凌駕するような系を構築するつもりである。そして、最終的に無細胞翻訳系を用いて見いだされた現象を細胞内において検証できたらと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
進捗状況で報告した通り、今年度は前年度の結果から方針を変更することになった。そのため、新しく実験系を構築する必要が生じ、反応条件の条件検討とその確認に多くの労力を費やすことになった。それらの検討した反応条件はいずれも基礎的な反応であり、用いる試薬やその確認方法についても大きな費用がかかるものではなかった。このような要因によって、今年度の使用額が当初予定していた費用を下回ったと考えている。本研究の核となる解析方法については今年度確立に成功したと考えており、次年度からはこの方法用いて多くの試料について解析を行っていくつもりである。従って、次年度の研究費は無細胞翻訳系や次世代シーケンス解析に必要な試薬や受託費に使用する予定である。
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