本研究では、植物の栄養吸収や環境ストレス耐性等を向上させる根圏マイクロバイオータに着目し、根圏マイクロバイオータが植物のアルカリ土壌耐性に寄与するメカニズムの一端を明らかにすることを目的とした。 これまでに、以下のことを明らかにした。1)植物の根から分泌される二次代謝産物であるクマリン類の合成変異体は、鉄欠乏土壌において典型的な鉄欠乏症状を示すとともに、根圏マイクロバイオータのコミュニティ構造が変化する。2)根圏マイクロバイオータは、鉄欠乏条件下においてクマリンの合成に依存して植物の生育を改善する。3)個々の根圏細菌はクマリン類に対して異なる感受性を示す。4)鉄欠乏条件下における野生型植物では鉄欠乏応答が誘導され、合成コミュニティを接種した場合には、鉄欠乏応答の強化ではなく、鉄欠乏応答の緩和が誘導される。他方で、クマリン類変異体では鉄欠乏条件下において合成コミュニティ接種の有無にかかわらず鉄欠乏応答が誘導される。 本年度は、根圏細菌の培養コレクションを用いて、鉄欠乏条件において個々の根圏細菌が植物の生育を改善する効果を持つかを調べた。その結果、単一の根圏細菌を接種した場合にも、菌によって鉄欠乏条件におけるレスキュー活性を示すことが明らかになった。さらにレスキュー活性は多様な分類群で見出され、その有無は根圏細菌の分類との関連性は見られなかった。また、クマリン合成欠損変異体に対してクマリン類を添加する実験から、根圏細菌によるレスキュー活性がクマリン類の添加によって相補されることが明らかになった。 以上のことから、根圏マイクロバイオータによるレスキュー活性は、そのメカニズムに多様性があることが予想され、さらに植物の根から分泌される少数のクマリン類に対して根圏マイクロバイオータが応答し発現すると考えらえた。
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