研究課題/領域番号 |
20K05957
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
杉田 護 名古屋大学, 情報学研究科, 招へい教員 (70154474)
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研究分担者 |
青木 摂之 名古屋大学, 情報学研究科, 准教授 (30283469)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | PPRタンパク / ミトンドリア / ヒメツリガネゴケ / 遺伝子発現 / 転写後制御 |
研究実績の概要 |
植物のミトコンドリアと葉緑体の遺伝子発現は、転写のみならず転写後に強い制御を受けているが、その詳細な分子機構については未だ不明な点が多い。本研究では、転写後制御の鍵因子である核コードのPentatrico Peptide Repeat (PPR)タンパク質の分子機能を明らかにするとともに、ミトコンドリア局在のPPRタンパク質を介した葉緑体の光合成機能調節の仕組みの解明を目指す。 本年度は5個のPモチーフをもつPpPPR_11 (Pp3c3_2440, Pp1s1_442)の機能解析を行った。PpPPR_11の全長コード領域に緑色蛍光タンパク質GFP配列を融合させたPpPPR_11-GFPタンパク質をヒメツリガネゴケに発現させたところ、GFP蛍光がミトコンドリアのみで観察された。さらにPpPPR_11遺伝子破壊株の原糸体コロニーに顕著な生長遅延が観察された。このことはPpPPR_11がミトコンドリアに局在してヒメツリガネゴケの生育に重要な働きを担っていることを示している。ミトコンドリアでの働きを明らかにするため、ミトコンドリアのトランスクリプトーム解析を行った。その結果、ミトコンドリア呼吸鎖複合体IサブユニットNad7をコードするnad7 mRNAが顕著に減少しているのが観察された。これらの結果は、PpPPR_11がnad7 mRNAの蓄積レベルを制御する因子として機能している可能性を強く示唆している。 これまでに明らかにされたヒメツリガネゴケのPPRタンパク質のモチーフ構成と機能的特徴を整理し、コケ植物と顕花植物のPPRタンパク質の類似性と多様性、およびオルガネラ遺伝子発現の転写後制御における役割について比較検討した。これを総説論文にまとめPlants誌に発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新規のPpPPR_11がミトコンドリア呼吸鎖複合体IサブユニットNad7をコードするnad7 mRNAの蓄積レベルを制御する因子として機能している可能性を示すことができた。この点に限ると進捗状況としては良好と言える。これに対して、当初計画の「光合成機能が異常となるミトコンドリアPpPPR_54とPpPPR_81それぞれの遺伝子破壊株の表現型を相補する相補株を取得する」という目標を達成できなかった。PpPPR_54とPpPPR_81の遺伝子破壊株ではコケ原糸体の成長が野生株よりも速いという特異な特徴が観察されるが、これまでに得られた相補株候補にはそのような特徴を回復したものが観察されなかった。このためPpPPR_54とPpPPR_81の機能解析については進捗が見られなかった。以上の理由で、進捗状況としては(3)の「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
引き続きPpPPR_54とPpPPR_81の遺伝子破壊株の表現型を相補する相補株の取得を目指すが、これと並行して遺伝子破壊株の全ミトコンドリア遺伝子の発現レベルを定量RT-PCR法で調べ、発現レベルに異常が見られるミトコンドリア遺伝子を探索する。発現異常が観察された遺伝子がPpPPR_54とPpPPR_81が直接作用する標的遺伝子と考えられる。同様の解析を全葉緑体遺伝子でも行う。これにより、PpPPR_54とPpPPR_81がミトコンドリアを介して間接的に葉緑体の光合成機能を調節する仕組みを解明する糸口をつかまえたい。今年度明らかにしたPpPPR_11の標的nad7 mRNA に結合するRNA領域をin silicoとin vitroで明らかにし、PpPPR_11の分子機能を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画の研究推進に想定以上の遅延が生じたため、物品費の一部と旅費の全額が未使用となった。これらの未使用額と合わせて次年度物品費、旅費、英語 論文の校閲・掲載料に充てる。
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