研究実績の概要 |
植物のミトコンドリアと葉緑体の遺伝子発現は、転写のみならず転写後に様々な制御を受けるが、その詳細な分子機構については未だ不明な点が多い。本研究では、転写後制御の鍵因子である核コードのPentatrico Peptide Repeat (PPR)タンパク質の分子機能を明らかにするとともに、ミトコンドリア局在のPPRタンパク質を介した光合成機能の調節の仕組みを解明する。本年度は、主にミトコンドリア局在のPpPPR_37の機能解析を行った。この遺伝子を破壊するとクロロフィル蛍光の非光化学的消光(nonphotochemical quenching, NPQ)の低下が観察された。過剰な光エネルギーは植物にとって有害な光障害を引き起こすため、過剰な光エネルギーをLHCIIの段階で散逸させあえてPSIIの反応中心に伝えない仕組みがNPQである。PpPPR_37破壊株の表現型はNPQの誘導装置の変異株によく似ていたことから、NPQ誘導に関与する核ゲノムコードのPhotosystem II subunit S (PSBS)、Light-Harvesting Complex Stress-Related (LHCSR)およびViolaxanthin deepoxidase (VDE)の遺伝子発現レベルを調べた。その結果、VDE遺伝子の発現レベルが顕著に低下していたが、PSBSとLHCSRの遺伝子発現レベルは野生株と遺伝子破壊株で同程度であった。PPRタンパク質を介してミトコンドリア機能が低下すると、何らかの“ミトコンドリアシグナル”が核ゲノム上のVDE遺伝子の発現を低下させ、NPQ誘導が損なわれ葉緑体の光合成機能低下を招いたと考えられるが、そのより詳細な分子メカニズムの解明が今後の大きな課題である。 研究期間全体を通じて実施した研究の成果として、ミトコンドリア局在のPLSタイプPPRタンパク質PpPPR_9とPpPPR_31がグループⅡイントロンのスプライシング因子として機能することを初めて明らかにした。
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