研究課題
小胞体中で生じたミスフォールド糖タンパク質は,細胞質に逆輸送され小胞体関連分解を受ける。ミスフォード糖タンパク質は,プロテアソーム分解に先立ちcytosolic PNGase による脱グリコシル化を受け,還元末端側にキトビオースを有するハイマンノース型遊離N-グリカン (GN2-HMT-FNGs) が生成し,次いでENGaseの作用により還元末端にGlcNAc1残基を有するGN1-HMT-FNGsがμM濃度で蓄積する。一方,細胞外液中には acidic PNGase により生成すると考えられる複合型遊離N-グリカン(GN2-PCT-FNGs)が存在する。植物の分化成長に関わるこれらFNGsの機能解明研究の一環として,令和4年度には分化成長中の植物細胞質及び細胞外液に存在するハイマンノース型及び複合型FNGsとオーキシン(インドール酢酸, IAA)と相互作用特性について,IAAの蛍光強度変動を指標として詳細な解析を行った。その結果,GN2-HMT及びGN2-PCT-FNGs は共に,数ミリモル濃度で濃度依存的にIAAの蛍光強度を低下させることが明らかとなり,これら植物に遍在するFNGsと相互作用することを明らかした。その一方で,GN1-FNGsはIAAとの相互作用がGN2-FNGsに比べて有意に低下することが分かった。しかしながら,N-アセチルキトオリゴ糖ではIAAとの相互作用は観察されないため,コアマンノシル構造と還元末端のN-アセチルキトビオース構造の両者がIAAとの相互作用に必要であることが明らかになった。既にトマト導管水中にGN2-PCT-FNGsが存在することを明らかにしているが,令和4年度には,師管液採取が容易なキョウチクトウの新茎を用いて,師管水中にもGN2-PCT-FNGsが存在することを明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
これまでに,アラビドプシス PNGase, ENGae及びトマトENGaseについて,遺伝子ノックアウトやCRIPPR-Cas9 法を用いて遺伝子発現抑制株の構築に成功し,全ての変異株におけるPNGaseやENGase活性の消失を確認している。しかしながら,それら変異株における発芽,成長,果実成長,種子形成等は野生株と大きな差異は認められなかった。一方,PNGaseやENGase遺伝子発現を抑制してもFNGsが野生株と比較可能な濃度で生成していることを発見し,FNGsが2種脱糖鎖酵素に非依存的な機構で生成していることを明らかにした。従って,両酵素の遺伝子発現制御によるFNGsの機能解析は難しいことが判明した。しかしながら,オーキシンとFNGsが相互作用することを世界に先駆けて発見し,FNGsがオーキシンの植物内における可溶性付与に寄与することで,オーキシン機能を補助する可能性を見いだした。この発見はFNGsの間接的ではあるが,植物の分化成長に関わる重要な生理機能の発見に繋がる可能性がある
上述の様に,PNGase, ENGase 遺伝子の発現制御による FNGsの生理機能解析は,これら両酵素の遺伝子発現を完全抑制しても FNGsが生成されていること,そして変異株の表現型に顕著な特性が見られないことから,FNGsの機能解析には異なる戦略が必要であることが分かった。以前にaPNGase の過剰発現株(トマト)について果実熟成が促進されることを見いだしているが,数世代を経ると転写減衰機構によりaPNGase遺伝子の過剰発現が抑制されることが分かった。そこで,転写減衰機構を抑制する方法を用いてFNGsの生成量を昂進させることで,FNGsの植物の分化成長に関わる機能解析を進める。令和4年度迄に,GN2-FNGsがIAAと相互作用することを見いだし,トリマンノシル構造と還元末端のN-アセチルキトビオース構造が相互作用に不可欠であることを証明している。そこで令和5年度には,その相互作用様式の詳細をNMR及びITCにより解析する予定である。更に,HMT-FNGsがシヌクレインのアミロイド凝集を抑制することを見いだしているので,種々構造のFNGsを使用してアミロイド凝集抑制活性に関わる構造機能相関解析を行う。
コロナウィルス禍の余波により計画した実験を遂行する時間が不足したため,令和4年度計画分の実験を令和5年度に遂行するため。
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