研究課題/領域番号 |
20K05963
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研究機関 | 国際医療福祉大学 |
研究代表者 |
林 真理子 国際医療福祉大学, 医学部, 講師 (30525811)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | グルタミン酸 / ペリニューロナルネット / ヒアルロン酸 / アストロサイト / グルタミン酸トランスポーター |
研究実績の概要 |
中枢神経系において、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸はシナプスに放出されて受容体を活性化したのち、グリア細胞の一種であるアストロサイトや、神経シナプス近傍のグルタミン酸トランスポーターに回収され、神経伝達が終了する。アストロサイトは、脳内では数千数万の微細な突起を形成して神経シナプスにアプローチしている。アストロサイトは単独培養では分岐の少ない単純な形態をとるが、神経細胞との混合培養により微細な構造を試験管内で再現でき、グルタミン酸トランスポーターの発現が誘導される。このことは、神経細胞はアストロサイトのクロストークによってアストロサイトを形態的、機能的に成熟させることを意味する。また、神経シナプス近傍に形成される細胞外マトリクス構造であるぺリニューロナルネットはヒアルロン酸を骨格とするが、このヒアルロン酸の合成はグルタミン酸トランスポーターの活性を支える性質を持つ。アストロサイトはぺリニューロナルネットを構成するタンパク質の供給にも関わっている。こうしたアストロサイトに機能に支えられた神経シナプス近傍でのグルタミン酸のすみやかな回収は興奮性伝達を時間的、空間的に限局したものにし、ピンポイントに絞った伝達を可能にする。 このようなグルタミン酸による興奮性伝達の仕組みを成熟させる神経細胞―アストロサイト相互作用にかかわる分子を同定するため、CRISPR-Cas9によるスクリーニングの系を立ち上げた。脳組織での形態を反映して高度に分岐したアストロサイトと神経細胞との混合培養系を持つ強みを生かした、多数の遺伝子の役割の効率良い評価を目指している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アストロサイトの形態的、機能的成熟を誘導する神経細胞とのクロストークに関わる遺伝子を検索するため、高度に分岐したアストロサイトを含む神経細胞との混合培養系を用いてCRISPR-Cas9による遺伝子編集の条件検討を行った。まず、SpCas9とガイドRNAをコードするプラスミドの遺伝子導入と、SaCas9とガイドRNAをコードするアデノ随伴ウイルスを用いる方法の両方を検討した。プラスミドを用いる方法では導入される細胞数が少なく、ダメージを受けて高度な分岐を形成しないものがほとんどであった。一方、アデノ随伴ウイルスを用いた場合は神経細胞とアストロサイトの双方に対するダメージが少なく、導入効率が優れていた。そこで、アデノ随伴ウイルスのセロタイプや、感染させる力価やタイミングの最適化を行なった。並行して、アストロサイトと神経細胞の相互作用部位に局在するタンパク質のプロテオミクス解析や、成熟アストロサイトのRNAseq解析を扱った複数の文献から、アストロサイトに特異的な発現、神経損傷によって発現が低下すること、などを基準にアストロサイトと神経細胞の間の相互作用のメディエーターになりそうなものを200個程度選定し、ガイドRNAを設計、遺伝子編集のためのアデノ随伴ウイルスを構築した。これらのウイルスの混合培養系に対する遺伝子導入を行い、SaCas9とアストロサイトの形態マーカーにもなるグルタミン酸トランスポーターGLT1で免疫染色を行い、評価を開始した。
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今後の研究の推進方策 |
アストロサイトによるグルタミン酸トランスポーターの発現と形態的成熟につながる神経細胞とのクロストークに関わる分子のスクリーニングを継続する。初年度に約200種のガイドRNAを挿入した、CRISPR-SaCas9による遺伝子編集を行うためのアデノ随伴ウイルスを神経細胞とアストロサイトの混合培養系に導入する。 SaCas9、GLT1に加え、神経細胞樹状突起マーカーのMAP2や、ヒアルロン酸を標識するHABP、ぺリニューロナルネットを標識するWFAを併用しながら、アストロサイトの形態とグルタミン酸トランスポーターの発現に対する影響、神経細胞との相互作用、ぺリニューロナルネットの形成を評価する。類似の遺伝子産物により補われ、表現型につながらない場合を想定し、複数のサブタイプを編集するウイルスや、同じシグナル経路に関わる遺伝子を編集するウイルスを同時に導入して評価する。 有意な表現型が認められた遺伝子については、遺伝子産物の免疫染色を行い、神経細胞との接触部への局在や、神経細胞とアストロサイトの突起伸長に伴う発現の継時変化がみられるかを観察する。並行して、緑色蛍光タンパク質を融合したものを遺伝子導入し、発現させて局在や形態に対する影響を調べる。また、遺伝子産物の分子構造に基づいて設計したドミナントネガティブ遺伝子産物を発現した場合の影響を調べる。さらに、培養海馬スライスに当該アデノ随伴ウイルスを導入し、アストロサイトの形態形成に影響はあるかを観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度より異動が決定していたため、異動先での研究環境構築のため留保する必要があった。CO2インキュベーターや実体顕微鏡、培養器具などの購入に充当する。
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