研究課題
神経細胞の存在下で、アストロサイトの分岐形成やグルタミン酸トランスポーターの発現が促進される。このプロセスを試験管内で再現、観察し、神経細胞の成熟がどの程度求められるかについて検討した。神経細胞は培養開始後4-5日で神経突起の伸長を始めるが、アストロサイトの分岐形成はこれとほぼ同時に開始した。さらに、この段階で既に、アストロサイトの分岐同士が互いを避ける性質を持ち、その結果、アストロサイト同士が重ならず排他的な領域を形成しながら空間を埋めていく、タイリング現象に繋がっていることがわかった。その後2週間程度にわたってアストロサイトは他のアストロサイトが存在しない方向に向かって伸長をつづけ、領域を拡大していった。これに対し、グルタミン酸トランスポーターのGLASTやGLT1、GABAトランスポーターGAT3などアストロサイトに特異的な輸送タンパク質や、アストロサイトに特異的な中間径繊維GFAPの発現は、神経シナプスマーカーであるグルタミン酸受容体や小胞型グルタミン酸トランスポーターの発現と並行して上昇し、神経シナプスの形成や成熟によって誘導されることが示唆された。また、リン酸化Ezrinは単独培養アストロサイトの突起の先端にあり神経シナプスへのアプローチに関わるものと考えられているが、この培養系においてもGFAPの届かないアストロサイトの突起の先端に局在していた。そして、MAP2に標識される神経突起の近傍に局在するものも多かった。
2: おおむね順調に進展している
神経細胞に誘導されるアストロサイトの形態や機能の成熟について解析を進めて投稿し、査読に対応した(2022.4に掲載決定/掲載)。さらに、神経細胞とアストロサイトのクロストークに関わる分子についても研究が進んでいる。CRISPR-Cas9による候補遺伝子の遺伝子破壊を行うアデノ随伴ウイルスを神経細胞とアストロサイトの混合培養に導入した。セロタイプや感染のタイミングの条件検討を行い、アストロサイトおよび神経細胞で候補遺伝子を破壊できることを確認した。そして、アストロサイトに特異的に発現する膜タンパク質で、アストロサイトの形態的成熟がみられる幼若期によく発現し、形態的特徴が失われる神経損傷で発現が低下する性質を持つ200余の候補遺伝子を破壊するガイドRNAを設計し、評価を進めた。神経細胞との混合培養に含まれるアストロサイトで遺伝子破壊をおこなった際に、突起の伸長や分岐、タイリング現象などアストロサイトの形態的な成熟に影響を与える頻度が高いものとして、50個の遺伝子を選定できた。
今後は、これまでに選定した候補遺伝子50種についてさらに解析を進める。遺伝子同士パスウェイが重なるもの、全く異なるパスウェイに属するものがある。これらは、同時に破壊した際により顕著な表現型がみられる可能性があるので、CRISPR-Cas9遺伝子編集ウイルスを同時感染させて影響を調べる。特に表現型の再現性が高いものについては、遺伝子産物の免疫染色をおこなって、アストロサイトの突起での局在や発現の継時変化を調べる。また、神経細胞やアストロサイトがより個体の脳の状態に近い培養スライスを用いて、遺伝子破壊がアストロサイトの形態に与える影響を評価する。
2021年度の異動で新たに研究体制を立ち上げ、動物実験や遺伝子組み替え実験の申請が許可されるまでの間、研究を遂行できない期間があった。次年度使用額を合わせ、新所属での研究環境を拡充するため、顕微鏡などの購入を計画している。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Molecular Brain
巻: 14 ページ: 149
10.1186/s13041-021-00851-1