研究課題/領域番号 |
20K05967
|
研究機関 | 岡山県農林水産総合センター生物科学研究所 |
研究代表者 |
鳴坂 義弘 岡山県農林水産総合センター生物科学研究所, その他部局等, 専門研究員 (20335459)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 抵抗性遺伝子 / 抵抗性蛋白質 / 炭疽病菌 / エフェクター / デコイモデル / シロイヌナズナ / 遺伝子対遺伝子説 / 植物免疫 |
研究実績の概要 |
植物は病気から身を守るため、病原体が分泌するAVRエフェクター(非病原性因子)を抵抗性(R)蛋白質により認識して病原体の存在を感知し、病原体に対する抵抗性を発揮している。研究代表者は、シロイヌナズナのゲノム上に病原糸状菌のアブラナ科野菜類炭疽病菌(Colletotrichum higginsianum、以下、アブラナ炭疽病菌と略す)に対する抵抗性(R)遺伝子座が、2セット存在することを世界に先駆けて発見した。1セットは5番染色体上で隣接したR遺伝子RPS4およびRRS1がペアとなり、R蛋白質複合体を形成した。もう一つ(RCH1)は4番染色体上腕に座乗し、独立してR蛋白質として働くと推察された。しかし、宿主植物のゲノム上にアブラナ炭疽病菌に対する複数のR遺伝子座が存在することの意義は明らかになっていない。 本研究では、研究代表者らが独自に発見したアブラナ炭疽病菌を認識する複数のR蛋白質に着目し、アブラナ炭疽病菌に対して抵抗性または感受性を示すシロイヌナズナ生態型を用いて、機能未知のR遺伝子RCH1の同定を試みた。 不活性型のRRS1と活性型のRCH1を有しアブラナ炭疽病菌に抵抗性を示すシロイヌナズナ生態型St-0および、不活性型のRRS1とRCH1を有しアブラナ炭疽病菌に感受性を示すLer-0を用いて、RCH1遺伝子座の特定を試みた。St-0とLer-0を交配して得られたF2個体を用いてマッピングした結果、St-0の4番染色体上腕の数十kb内にアブラナ炭疽病菌を認識する抵抗性遺伝子RCH1が存在することをつきとめた。 また、アブラナ炭疽病菌に対する抵抗性発現におけるR蛋白質RCH1の役割、機能および貢献度の解明を試みるため、RCH1の破壊植物の作製を試みた。アブラナ炭疽病菌に抵抗性のシロイヌナズナ生態型に変異原処理し、本菌に対して感受性になった複数の個体を選抜した。現在、原因遺伝子の特定を試みている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アブラナ炭疽病菌に対する抵抗性遺伝子は5番染色体に座乗するデュアル抵抗性遺伝子RPS4/RRS1と4番染色体に座乗するRCH1が存在する。不活性型のRRS1と活性型のRCH1を有しアブラナ炭疽病菌に抵抗性を示すシロイヌナズナ生態型St-0および、不活性型のRRS1とRCH1を有しアブラナ炭疽病菌に感受性を示すLer-0を用いて、RCH1遺伝子座の特定を試みた。最初に、St-0とLer-0を交配して得られたF2個体(約6000個体)からアブラナ炭疽病菌に感受性を示す1489個体を選抜した。次いで、TAIRの4番染色体におけるマッピングマーカーJV32/33およびnga8マーカーにより、目的遺伝子が本マーカー間に存在することが示唆された。さらに、St-0およびLer-0間のマッピングマーカーを作製するため、次世代シーケンス解析により、St-0の全ゲノム解析を行った。目的領域をLer-0ゲノム配列と比較解析した結果、9種のSSLPマーカーとリアルタイムPCRを用いた10種のHRMマーカーが作製できた。また、全ゲノムシーケンスで得られたSt-0の目的領域には11のコンティグが存在した。そこで、コンティグ間の配列を特定するため、10kb以上の塩基配列を増幅可能なKOD One PCR Master Mix (TOYOBO)を用いて増幅し、コンティグ間の未知配列を決定した。その結果、St-0の4番染色体上腕の数十kb内にアブラナ炭疽病菌を認識する抵抗性遺伝子RCH1が存在することをつきとめた。 さらに、RCH1を特定するため、St-0のゲノムにランダムな変異を導入し、アブラナ炭疽病菌に対して感受性変異体の獲得を試みた。St-0種子に変異原処理を行い、M2種子を得た。現在、感受性個体を得て、戻し交雑を行っている。 以上の通り、おおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
アブラナ炭疽病菌に対する抵抗性遺伝子のうち、4番染色体に座乗するRCH1を特定するため、本菌に対して抵抗性のシロイヌナズナ生態型St-0と感受性のLer-0を用いてファインマッピングを行う。また同時に、R2年度に取得したSt-0の感受性変異体について、次世代シーケンサーを用いて変異部位の特定を試みる予定である。
|
次年度使用額が生じた理由 |
4番染色体の抵抗性遺伝子RCH1を同定するため、アブラナ炭疽病菌に対する感受度が異なる複数の生態型において、次世代シーケンスを用いたRNAseq解析により、病原菌感染初期に誘導され、かつ、候補遺伝子が座乗する領域の転写産物の同定を試みる計画を立てたが、コロナウイルス感染症の影響で、外注作業に時間を要し納品が次年度となったため。
|