研究課題/領域番号 |
20K05968
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
犬飼 剛 北海道大学, 農学研究院, 講師 (90223239)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イネ / いもち病菌 / 圃場抵抗性 / Rタンパク |
研究実績の概要 |
Pid3-I1はいもち病菌に対して量的に働く抵抗性遺伝子である。このPid3-I1の効果をそれぞれCO39とコシヒカリの遺伝的背景下で比較すると、CO39とコシヒカリの罹病程度は同定程度であるにも関わらず、コシヒカリの遺伝的背景下ではPid3-I1の効果がCO39におけるそれと比べて低い傾向にあった。これはPid3-I1と相互作用して抵抗性を増大させる因子があることを示唆している。この因子を同定する目的で、いもち病菌感染時における防御関連遺伝子の発現パターンをCO39とコシヒカリで比較したところ、コシヒカリではPR1bの発現が全く誘導されないことを見いだした。PR1タンパク質は抗菌タンパク質として病原菌類に作用するだけでなく、タンパク質C末端の11アミノ酸がプロテアーゼによって切断され、CAPE1ペプチドエリシターとして抵抗性の誘導に関わることが他種植物で報告されており、イネにおいてPid3-I1を介した抵抗性誘導経路がCAPE1を介した経路とクロストークしている可能性が示唆された。本研究では、まずコシヒカリにおいてPR1bが発現しない原因を調べた。その結果、PR1bのアミノ酸コード領域にレトロトランスポゾン様因子が挿入されており、この挿入変異によって遺伝子の機能が喪失していることが明らかになった。また、このPR1b座における多型をマーカー化して日本の栽培品種における拡がりを調べたところ、主要品種のほとんどがこの変異をもつことが示された。このため、現在の日本品種にPid3-I1を導入しても十分な圃場抵抗性の向上が期待できない可能性がある。今後、PR1bをコシヒカリに導入した過剰発現体を作成し、イネにおけるPR1bの機能を解析するとともにPid3-I1との相互作用を解析する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和3年度は新型コロナウイルスの影響のため実験の時間が制限され、研究がやや遅れている。なお、成果の一部は令和4年度日本植物病理学会講演会にて口頭発表した。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの実験結果から、Pid3-I1はレースに対して非特異的に働く圃場抵抗性遺伝子であることを明らかにしている。一方、Pid3座には真性抵抗性遺伝子であるPid3-I2及びPid3-I3が分化しているが、Pid3-I1のアミノ酸配列と比較すると、Pid3-I2ではLRRドメインに3カ所、Pid3-I3ではNBSドメイン側に2カ所、LRRドメインに4箇所の変異しか存在しない。Pid3-I1の機能においてどの変異が重要であるのか明らかにすることは、圃場抵抗性のメカニズムを理解する上で重要であると考えられることから、上述の変異に関するキメラ遺伝子を作成し、日本晴に導入した系統を作出して抵抗性の程度やレースに対する特異性、防御関連遺伝子の発現パターンなどがどのように変化するか解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は新型コロナウイルスの影響のため実験の時間が制限され、研究に遅れを生じた。令和3年度に行えなかった研究は最終年度である令和4年度の研究計画に加え、次年度使用額を含め予算全額を執行する計画である。
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