研究課題/領域番号 |
20K05969
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
高橋 宏和 名古屋大学, 生命農学研究科, 准教授 (50755212)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ダイズ / 耐湿性 / 通気組織 / GWAS / トランスクリプトーム |
研究実績の概要 |
日本においてダイズは主に排水性の悪い水田転換畑で栽培されることから,湿害が問題となっており,ダイズの耐湿性向上は重要な育種目標である.ダイズの耐湿性向上には恒常的にあるいは過湿ストレス発生後短期間で通気組織を形成させることが必要である.これを達成するためには,二次通気組織の形成機構を解明する必要があるが,これまでその分子機構に関する知見は皆無であった.そこで本研究課題では,組織特異的なトランスクリプトーム解析による二次通気組織形 成に関わる遺伝子の情報の蓄積やこれまで解析が行われてこなかった二次通気組織形成速度に着目した解析を行うことで,ダイズの耐湿性向上のために二次通気 組織形成に重要な遺伝子を探索,同定することを目指して解析を行っている. ダイズGWASパネル198系統における二次通気組織形成速度の評価については,順調に進展しており,現在GWASによる二次通気組織形成速度に関わる遺伝子領域の選抜を試みている.また,Laser Microdissectionを用いたトランスクリプトーム解析により,二次分裂組織特異的に発現するWOX転写因子を選抜し,過剰発現体を作出した.また,ゲノム編集を用いた遺伝子破壊系統についても作出を進めている.また,遺伝子発現解析の結果から二次通気組織形成のペプチドホルモンによる制御機構の存在が示唆された.そこで,このペプチドホルモンの遺伝子破壊系統の作出を行なっている.今後は,二次通気組織形成速度に関するGWAS解析を行い責任遺伝子の同定を目指すとともに,作出した形質転換体の評価を行うことで,二次通気組織形成に関わる重要因子の同定を目指す.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ダイズGWASパネル198 系統における二次通気組織形成速度については,概ね評価が終わり,現在一部の系統で再現性の確認等を行なっており,順調に評価が進んでいる.現在GWASによる候補遺伝子領域の同定も行なっており,今後は遺伝子の単離に向けて研究を進める予定である.また,Laser Microdissectionを用いたトランスクリプトーム解析により,二次通気組織形成過程で遺伝子発現が変動する遺伝子を9つのクラスターに分類した.このうち,二次分裂組織の維持に関与することが想定されたWOX転写因子について,過剰発現体を作出した.表現型が不安定であるものの,二次分裂組織および木部の形成に影響を及ぼすと考えられる結果が得られている.また,この遺伝子のCRISPR/Cas9を用いたゲノム編集による遺伝子破壊系統の作出も試みている. さらに,トランスクリプトームデータから二次通気組織形成制御にペプチドホルモンが関与することが示唆されたため,このペプチドホルモンを人工合成し,ダイズに投与したところ,湛水ストレス処理を施さなくても,二次分裂組織の形成が部分的に誘導された.現在,この遺伝子についても遺伝子破壊系統およびプロモーターアッセイ用の形質転換体の作出を行なっている.また,植物ホルモンであるサイトカイニンが二次分裂組織の細胞分裂を正に制御し,シャスモン酸が二次 分裂組織の二次通気組織への分化を促進することを示唆する結果が得れたため,二次通気組織形成が,サイトカイニンとシャスモン酸のバランスにより制御されているという仮説を立案した. 現在この仮説を証明するためにさらに解析を行なっている. また,昨年度実施予定であった,アソアオガリのゲノム配列解読については,昨年度形質転換体の作出および評価に予算を費やしてしまったため,次年度に先送りにした.
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今後の研究の推進方策 |
ダイズGWASパネル198系統において,現在GWASによる候補遺伝子領域の同定も行なっており,今後は遺伝子の単離に向けて研究を進める予定である. 二次分裂組織 の維持に関与することが想定されたWOX転写因子の過剰発現体について,表現型が不安定であるものの,二次分裂組織および木部の形成に影響を及ぼすと考えられる結果が得られている.今後は,表現型をより詳細に観察するともに,今後得られる予定である遺伝子破壊系統についても評価を行い,このWOX遺伝子の二次分裂組織形成への関与を明らかにする予定である.また,新たに同定したペプチドホルモン遺伝子について,遺伝子破壊系統などの形質転換体の作出を試みているとともに,人工合成したペプチドホルモンを投与することで,好気条件下でも二次分裂組織を部分的に誘導できることが明らかとなったため,ペプチドホルモンにより誘導された分裂組織と湛水条件下で誘導された分裂組織の間のRNA-seq解析を行うことで,二次分裂組織から二次通気組織への分化に重要な因子の同定を目指す.また,昨年度見送っていたアソアオガリのゲノム配列についてもシークエンスを行い,アソアオガリにおける二次通気組織の早期形成に関わる責任遺伝子の同定を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
アソアオガリのゲノム配列の決定を次年度以降に先送りしたため.
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