研究課題/領域番号 |
20K05971
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研究機関 | 名古屋市立大学 |
研究代表者 |
木藤 新一郎 名古屋市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (60271847)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 低温耐性 |
研究実績の概要 |
本研究ではCISP遺伝子をモデル植物であるイネやシロイヌナズナで高発現させ、それら形質転換体の低温耐性を調べる研究に取り組んできた。その結果、シロイヌナズナで高発現させると、コントロールに比べて低温耐性が高くなることが確認できている。ただし、先行して作成できた1系統のみを使った結果なので、複数の形質転換系統を作成して上記結果の確認を行う計画である。なお、シロイヌナズナやイネにはCISPに相同な遺伝子が存在せず機能喪失型の形質転換体を用いた解析ができないので、昨年度から新たにCISPの相同遺伝子を持つミナトカモジグサを用いた解析に着手し、形質転換体の候補が得られている。よって、機能喪失型の形質転換体で低温耐性が低下することを確認し、CISPが低温耐性に寄与する遺伝子であることを証明する計画である。なお、昨年度の解析で、植物体を低温から常温に移すと、低温下で転写されたCISPのmRNAsが急速で減少することを確認した。本研究では、CISPタンパク質がRNAシャペロンとして低温下で進行するmRNAの二次構造の形成を抑制することで根の低温耐性に寄与していると考えているが、仮説が正しければCISPタンパク質は非低温下では不必要となるため、CISPのmRNAsも選択的に分解されていると推察できる。CISPタンパク質を特異的に検出する抗体が作成できたので、今後はタンパク質レベルの解析を進め、CISPタンパク質がRNAシャペロンであることの証明に着手するとともに、CISPタンパク質が常温下で分解されるしくみに関しても解析を進める計画である。最後にCISPタンパク質の修飾に関する研究についてであるが、新たに作成した抗体でウエスタンブロット解析を行うと、CISPタンパク質のシグナルが推定サイズよりも大きな箇所に出てくるとの結果を得ている。よって、その修飾について解析を進める計画である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)CISP遺伝子を高発現する形質転換体の作成と低温耐性の評価について これまでに、CISP遺伝子を過剰発現させたシロイヌナズナで低温耐性が上昇することを確認している。よって、研究の主目的である仮説「CISPは植物の低温耐性に寄与する」の検証は進んでいる。ただし、イネではCISPを発現させるとカルスからの再分化効率が極端に低下するため、植物体の作成には至っていない。よって、昨年度から新たにミナトカモジグサを用い、内生のCISP相同遺伝子の発現を変化させた形質転換体(過剰発現系統と発現抑制系統)の作成に着手している。その結果、過剰発現系統の作成は完了し、発現抑制系統の作成も順調に進んでいる。今年度は、それら形質転換体を用いてCISPの発現が低温耐性に及ぼす影響を解析する計画である。 (2)CISP遺伝子およびCISPタンパク質の解析について CISPは、低温耐性の形質を有する麦類などの植物のゲノムにのみ存在する遺伝子で、オオムギやミナトカモジグサを用いたこれまでの解析で、CISP遺伝子は低温特異的に根で発現し、その発現は植物体を常温環境に移すと急激に減少することを確認している。また、in vitroの実験でCISPタンパク質がRNAと結合することも確認しており、仮説「CISPタンパク質はRNAシャペロンとして機能する」を裏付ける結果も得ている。さらに、原核生物である大腸菌でCISPを発現させると大腸菌の増殖が抑制されるが、真核細胞である酵母で発現させた場合は増殖を抑制しないという興味深い結果も得ている。大腸菌の結果は、細胞内で発現したCISPが大腸菌のDNAやRNAと非特異的に結合して複製や転写・翻訳が阻害されたためと考えている。この結果も、間接的ではあるがCISPタンパク質が核酸に結合して機能するRNAシャペロンである事を示唆していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
シロイヌナズナとイネでCISPの過剰発現系統を作成して低温耐性への影響を調べていたが、CISPの異所的な過剰発現はそれら植物の生育に負の影響を及ぼすこともあり、過剰発現系統の作成と解析が容易でないと判断した。よって、昨年度からミナトカモジグサを用いて内生のCISP相同遺伝子の発現を抑制する形質転換体の作成に取り組んでいる。なお、CISPの過剰発現系統についてはカルスを使って低温下のタンパク合成能力(増殖能力)を調べることでCISPタンパク質がRNAシャペロンとして働いていることを証明できる可能性もあることから、今後は、当初の計画である植物体を使った解析に加えて、再分化させる前のカルス(CISP過剰発現系統)を使った解析にも新たに取り組む計画である。 次に、低温下で発現誘導されたCISPのmRNAsが常温で急激に分解されることが明らかになったことから、今後はCISPのmRNAsおよびタンパク質の温度依存的な安定性や分解様式について詳細に解析していく必要があると考えている。さらに、昨年度の解析でCISPが翻訳後の修飾を受けている可能性を示唆する結果が得られたことから、その修飾様式についても調べていく計画である。なお、細胞内で不要になったタンパク質の選択的な既知の分解システムにユビキチンを介するプロテアソーム系があるが、これまでの解析ではCISPタンパク質が細胞内でユビキチン化されていることは確認できていない。したがって、不要になったCISPは液胞に選択的に輸送されて分解されている可能性が高いと考えられる。この仮説を確かめるため、今後はCISPにGFP等のタグを融合させたタンパク質を植物で発現させてCISPの細胞内局在を解析し、常温環境で不要になったCISPが液胞に輸送されている可能性についての検証を進める計画である。
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