研究課題
フツウソバにおける異形花型自家不和合性は、複雑形質の代表的な例であり、S座に集約される遺伝子複合体S-supergeneによって、花の形態多型と花粉の自他認識が統御されている。フツウソバのS-supergeneには、Sハプロタイプとsハプロタイプが存在し、「雄しべが長く雌しべが短い」短柱花個体の遺伝型がSs、「雄しべが短く雌しべが長い」長柱花個体の遺伝型がssとして知られている。本研究では、フツウソバのS座が如何にして複数の形質を統御しているのか、遺伝的基盤を明らかにするために、自家和合性変異体と野生型のS座が支配する形質の表現型解析、比較ゲノム解析及び花器官のRNA-seq解析を実施する。これまでの研究で、短柱花個体のS座領域が欠失したS-del1変異体を発見している。S-del1は、次のような特徴をもつことが示された。①等長柱花の花が咲き自殖する。②雌しべは、sハプロタイプの花粉を拒絶し、Sハプロタイプと自身の花粉を受け入れる。③雄しべで生産される花粉は、短柱花個体と長柱花個体とも受精できる。④花粉サイズは、短柱花タイプまたは長柱花タイプでもない。これらの特徴から、S-del1は花粉サイズのアイデンティティを失うことによって、どの花形タイプ(短柱花、長柱花、等長柱花)とも受精が可能になったと推察された。次に、野生型の雄しべ・雌しべのRNA-seq解析によって、Sハプロタイプ領域から転写されている5つの遺伝子を抽出した。S-del1におけるこれら5つの遺伝子の存否をRT-PCRによって確認したところ、S座に挿入・欠失変異が生じていることが明らかとなった。S-del1にSハプロタイプ領域を導入したF1は、短柱花形質を示した。このことより、S-del1の欠失・挿入変異領域には、雌しべの長さ、花粉の大きさ及び自家不和合性の形質を統御する遺伝子が存在することが示された。
3: やや遅れている
研究代表者が引き続き病気加療中により研究を十分に進展させることができなかったため、進捗状況は「やや遅れている」と評価した。
2023年度は、上記の計画に基づき、自家和合性変異体と野生型のS座が支配する形質の表現型解析、比較ゲノム解析及び花器官のRNA-seq解析を予定していたが、研究代表者が引き続き病気加療中のため研究計画の見直しを行い、自家和合性変異体の表現型解析と花器官のRNA-seq解析を行った。2024年度は、各種Sハプロタイプの比較ゲノム解析を実施することで、S座による異形花型自家不和合性を統御する遺伝的基盤を明らかにする。
研究代表者が病気を発病し、加療のために研究活動に遅れが生じたため。
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