根の通気組織は、湛水により根系が酸素欠乏となった際に地上部から根端まで酸素を運ぶための通り道の役割を果たすことから、畑作物の耐湿性向上に重要な形質である。本研究では、耐湿性の高いテオシント(トウモロコシの近縁種)が持つ通気組織形成能について、詳細マッピング、準同質遺伝子系統 (NIL) の作成、そして発現解析による責任遺伝子の同定を行うとともに、通気組織が環境ストレス耐性向上に及ぼす効果を検証することを目的とする。 前年度までに、テオシントの第1染色体の通気組織形成遺伝子の候補領域9.9 cM (約6 MB)について、149個のSNPsマーカーを得るとともに、トウモロコシの遺伝背景にテオシントのQTLを導入した高純度のNILの作成を進めた。また、通気組織形成過程において皮層で発現する遺伝子の網羅的発現解析(RNA-Seq)により、通気組織形成時に発現量が変化する第1染色体の遺伝子を複数見出した。さらに、乾燥条件下における光合成関連形質の比較において、通気組織形成能と乾燥耐性との関係を明らかにした。 最終年度は、通気組織形成の制御機構の解明を重点的に進め、イネで知られているオーキシンの制御による側根の形成と通気組織形成がテオシントにおいても同様に制御されていることをオーキシン関係の遺伝子の経時的な発現解析により明らかにした。 なお、当初計画していた純度の高いNILを用いた詳細な遺伝子発現解析までには至らなかった。これは、詳細マッピングの過程で候補領域の遺伝子は2つあり、各遺伝子の効果が十分に大きくなく形質評価が困難であったためである。一方で、通気組織形成過程において皮層で発現する遺伝子のRNA-Seqの解析対象を第1染色体以外の第5,8染色体の通気組織遺伝子を含む全ゲノムを対象にし発現量の変異が大きい方から100遺伝子を抽出したところ、第1染色体の遺伝子が高い割合で含まれていた。
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