アブラナ科植物の自家不和合性形質は、アブラナ科野菜のF1品種採種や育種に関与する重要な農業形質の一つである。アブラナ科植物自家不和合性の程度(強度)は系統間で差があることや環境により変動することが知られている。本研究課題では、アブラナ科植物自家不和合性の柱頭因子であるSRKに注目し、自家不和合性程度の分子機構を解明することを目的とした。 2020年度と2021年度にガラス室で栽培して解析したるB. rapa S遺伝子系統の自家不和合性程度では晩抽性の系統1つが低自家不和合性程度を示した。晩抽性系統の開花期は気温が上昇する時期と重なったため、高温(栽培環境)により低自家不和合性程度になった可能性が考えられた。そこで、上記系統に関しては人工気象機内で栽培して自家不和合性程度を解析したところ、ガラス室栽培時と同様に低自家不和合性程度を示し、栽培環境の影響による低自家不和合性ではないことが示唆された。 B. rapa SRKの細胞膜局在性を解析するため、SRKのC末端にPAタグを付加したBrSRKを発現する形質転換シロイヌナズナを作製した。上記、ガラス室栽培時に高自家不和合性程度を示したBrS-9ハプロタイプのSRK(BrSRK9-PA)をシロイヌナズナで発現すると約80%のSRK分子が細胞膜に局在した。低自家不和合性を示した3つのS遺伝子系統のうち、2つのSハプロタイプのSRKはシロイヌナズナ発現時に細胞膜に局在する分子の割合は低かった。一方、残りの1つのSハプロタイプに関しては、約半数のSRK分子は細胞膜に局在していた。今後、より多くのSハプロタイプを解析することで、SRKの細胞膜局在性が自家不和合性程度のバイオマーカーになるか検証する。
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