高温ストレス下で栽培されたコムギは、小麦粉生地の弾力性が低下し小麦粉品質が低下する。本研究の目的は、高温ストレス下でも小麦粉品質が低下しないコムギの開発とそのメカニズムを解明することである。 本年度は昨年度に引き続き、野生種由来の高弾力性タンパク質をコードする遺伝子のコムギへの導入を進めた。野生種染色体とコムギ染色体間での組換えが期待できる系統について、高弾力性タンパク質をコードする遺伝子の遺伝子型を調査した。その結果、その遺伝子がホモ接合である個体を得ることができた。 高温ストレス下ではデンプン量が減少し、その組成においてもアミロース含有率が高くなるという報告がある。そこで、胚乳におけるデンプン合成能を高めるため、野生種由来のデンプン合成遺伝子を高弾力性タンパク質遺伝子の場合と同様の手法を用いて、コムギへ導入することを試みた。本年度、DNAマーカーによる選抜を行い、野生種由来のデンプン合成遺伝子が座乗する染色体腕のみを保有するコムギ個体を得ることができた。 高温ストレス下での小麦粉品質維持・向上に貢献できる野生種由来の新たな遺伝子・染色体を探索することを目的として、野生種の染色体を1対ずつ添加したコムギ実験系統シリーズを用い、開花後の穂培養中に高温ストレスを与えた。その結果それらの系統の中に、高温ストレス下でも種子が小粒化せず、通常条件下の場合と同様、充実した種子形態を維持できる系統を見出すことができた。 以上より得られた野生種に由来する遺伝子・染色体をもつコムギは、高温ストレス下でも小麦粉品質の維持に貢献することが期待される。
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