研究課題/領域番号 |
20K05984
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
門田 有希 岡山大学, 環境生命科学研究科, 准教授 (30646089)
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研究分担者 |
大谷 基泰 石川県立大学, 生物資源環境学部, 准教授 (20223860)
刑部 祐里子 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(生物資源産業学域), 教授 (50444071)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゲノム編集 / 形質転換 / サツマイモ / 倍数性 / 線虫抵抗性 / 遺伝子機能解析 |
研究実績の概要 |
本研究では、倍数性作物種であるサツマイモを対象に、遺伝子機能解析を加速させるためゲノム編集技術を開発する。最近、研究担当者らは、遺伝解析が極めて困難とされてきたサツマイモ(2n = 6x = 90)を対象にNGSを利用したゲノムワイドな遺伝解析を行い、さまざまな農業形質(線虫・ゾウムシ抵抗性、収量性や塊根の皮色等)にかかわるゲノム領域を同定した。さらに、トランスクリプトーム解析や全ゲノムリシーケンスのデータなども組み合わせることにより、線虫抵抗性ならびに塊根皮色を制御する候補遺伝子をそれぞれ1つに絞り込むことに成功した。しかしながら、これら候補遺伝子の機能解明には至っておらず、原因遺伝子であると証明されてはいない。遺伝子機能を詳細に調べるためには、その遺伝子を改変した植物体を作出する必要がある。 ゲノム編集はターゲット遺伝子をピンポイントで改変可能な技術であり、今後作物の効率的な品種改良には欠かせない技術となりうると考えられる。一方ゲノム編集の効率は植物細胞への遺伝子導入や植物体の再生効率に大きく影響を受ける。さらに植物は、倍数性や繁殖様式などの遺伝的特徴も異なる。よって、それぞれの植物種に適したツールの開発ならびに手法の確立が不可欠である。特にサツマイモについては形質転換の難易度が高く、6倍体で栄養繁殖性を示すため交雑育種や戻し交雑等である特定の遺伝子だけを取り除く、あるいは導入することが極めて難しい。そこで本研究では世界で7番目に生産量の多い重要作物であるサツマイモを対象にゲノム編集技術を開発し、遺伝子機能解析ならびに遺伝子改変した品種の効率的な育成に取り組む。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度は、線虫抵抗性候補遺伝子の配列解析、品種「ジェイレッド」における胚性カルスの誘導等の形質転換実験を行った。 1.候補遺伝子の配列解析 研究担当者らは、これまでの研究において線虫抵抗性品種「ジェイレッド」のもつ抵抗性候補遺伝子を見出している。しかしながら、ジェイレッドにおける遺伝子配列の決定には至っておらず、原因変異についても不明である。形質転換を行う上では、抵抗性品種である「ジェイレッド」の遺伝子配列情報が不可欠である。そこで、候補遺伝子の全長配列ならびにプロモーター配列をサンガー法により解析した。抵抗性品種「ジェイレッド」と感受性品種「潮州」のゲノムDNAを用い、遺伝子全長ならびにプロモーター領域のアンプリコンを作製し、サンガー法でシーケンスした。その結果、遺伝子内部において品種間で異なる変異が複数確認された。しかしながら、原因となる変異を特定することはできなかった。一方で、ジェイレッドの遺伝子配列情報は得ることができたため、次年度以降、ゲノム編集や形質転換でこの遺伝子配列を導入し、機能解析を行う予定である。 2.胚性カルスの誘導 研究担当者らは品種「花らんまん」を対象に、高効率に形質転換体を作出可能な手法を開発している。一方、本研究では品種「ジェイレッド」のノックダウンあるいはノックアウト個体を作出する予定であり、「ジェイレッド」での形質転換系を確立する必要がある。そこで初年度は、「ジェイレッド」を対象に茎頂からの胚性カルスの誘導を試みた。その結果、「ジェイレッド」でも「花らんまん」と同様の実験条件で胚性カルスを誘導できることが示された。しかしながら、品種間でその誘導率は大きく異なり、「花らんまん」では8~9割の成功率であるのに対して、「ジェイレッド」では5割前後であった。今後、誘導条件を精査し、より効率的に胚性カルスを誘導可能な実験条件を確立する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今後、以下2つの柱で研究を進めていく予定である。 1.候補遺伝子の原因変異の探索 初年度のシーケンス解析では、抵抗性の原因変異を特定することができなかった。原因としては、アンプリコンを作製した際、特定のアレルを特異的に増幅させてしまった可能性が高いこと、また遺伝子をクローニングした後、サンガー法でシーケンスしたが、それほど多くのクローンを解析することができなかったため、変異を拾い切れていない可能性高いこと、などが考えられた。サツマイモは6倍体であり、ゲノムのヘテロ性も高いため、かなりの数のクローンをシーケンスしなければ、最大6種類のアレルを特定することができない。そこで今後は、全ゲノムシーケンスやPacBioの高精度ロングリードシーケンスなどを行い、膨大な配列を解析することで原因変異を特定する予定である。 2.形質転換体の作出 得られた候補遺伝子の配列情報を利用し、形質転換を行う。初年度の研究から、品種「ジェイレッド」における胚性カルスの誘導に成功した。そこで、候補遺伝子を導入するためのコンストラクトを作製する。現在、3つの形質転換体(①線虫抵抗性遺伝子の過剰発現体、②線虫抵抗性遺伝子のノックダウン個体、③線虫抵抗性遺伝子のノックアウト個体)の作出を予定している。①については、35Sのdoubleプロモーターを用いて抵抗性遺伝子を品種「花らんまん」で高発現させる。②については、RNAi法により品種「ジェイレッド」で抵抗性遺伝子の発現量を抑制した個体を作出する。③については、ゲノム編集により品種「ジェイレッド」で抵抗性遺伝子をノックアウトした個体を作出する。①~③について抵抗性を評価し、遺伝子の機能解析を行う。また、①と②の形質転換体については候補遺伝子の発現解析を行い、発現量を調査する。③については候補遺伝子の配列解析を行い、ゲノム編集により生じた変異も調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は、サンガー法による候補遺伝子のシーケンス解析に、予想以上に時間がかかった。そのため、遺伝子導入に至らず、残額が生じたため、次年度に繰り越すこととした。こちらについては、今年度前半で実施する予定であり、研究プロジェクト遂行には問題ないと思われる。
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