植物の種間交雑では雑種種子発育不全などの生殖隔離が認められることが多く、野生種などの異種植物を利用する種間交雑育種の妨げとなっている。私はタバコの種間交雑において、交雑組合せによって程度の異なる雑種種子発育不全(タイプⅠおよびタイプⅡ種子発育不全)が生じることを見出している。タイプⅡ種子発育不全ではタイプⅠ種子発育不全よりも重度の胚乳発達異常が認められ、受精後発達中の子房の脱離が誘発される。本年度は、これらの生殖隔離のメカニズムを解明するために次のような実験を行った。 1)前年度までに育成した種子発育不全が分離すると考えられる正逆F1雑種およびそれらに由来する2つのF2集団を用い、これらの各個体をタバコ栽培種と交雑することで遺伝解析を行った。これらの世代ではタバコ栽培種との交雑後に子房内で種子発育不全の程度が分離し、それによりF2では総合的な種子発育不全の程度が個体によって異なると予想される。そこで、種子発育不全の程度の違いを明らかにするために、子房落下を指標として評価した。加えて、その他に指標として使用可能な方法を開発するために、種子の染色法を検討した。前年度からの継続した実験により、種子発育不全は量的形質であり、複数の遺伝子がかかわっていることを示唆した。また、いくつかのF2個体を用いてGRAS-Di解析を実施したが、解析した個体数が少なく、QTL解析までには至らなかった。 2)これまでの研究で使用してきたタバコ野生種の倍数性シリーズは自殖種子を得ることができず、植物体のまま維持しなければならない問題があった。そこで、改めてコルヒチン処理によりタバコ野生種の倍加個体を多数作出したところ、自殖種子を得ることができる8倍体や16倍体系統を見出すことができた。これらの系統は種子として維持することが可能であることから、今後の種子発育不全および子房落下の解析に有用であると考えられた。
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