研究課題/領域番号 |
20K05989
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
田村 健一 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 上級研究員 (10414749)
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研究分担者 |
清 多佳子 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産研究部門, 主任研究員 (40391362)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | イネ科牧草 / イタリアンライグラス / エンドファイト / 相利共生 / 垂直伝播 |
研究実績の概要 |
イタリアンライグラス- Epichloe occultance共生系(自然界での共生系)とイタリアンライグラス- E. uncinata共生系(人工接種による共生系)における、エンドファイトの種子から植物体への移行率を比較するために、3組み合わせのE. occultance感染個体とE. uncinata感染個体の単交配後代種子(室温で2年間保管したのち冷蔵保存)について、エンドファイトの感染率および幼苗移行率を評価した。平均種子感染率はE. occultanceが89.9%、E. uncinataが77.1%、平均幼苗移行率はそれぞれ、92.3%および35.8%であり、これまでの知見と同様に、E. uncinata共生系において幼苗移行率が低い傾向が認められた。さらに精緻な比較を行うため、宿主であるイタリアンライグラスの遺伝的背景を揃えることを目的に、各交配組合わせについて、E. occultanceおよびE. uncinata感染後代個体間(full-sib)で隔離交配を行い後代種子を得た。ただし試験遂行のために十分な量の種子が得られなかったため、再度隔離交配を実施した。後代種子感染率に影響する要因のうち、植物体から後代種子への菌移行過程を調べるため、E. occultance感染1系統とE. uncinata感染2品種の穂内の感染種子マップを作成した。菌は穂軸中を植物の根元から穂先方向へ、また小穂中を穂軸から先端方向へ伸長し、菌糸分布域内では高率に種子感染が成立していた。このことから種子感染率は菌がどれだけ植物体の先端まで伸長できるかによって決まることが明らかとなった。また菌糸分布域の大きさは菌種および宿主植物によって異なる可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画ではエンドファイトの垂直伝播に関わるイタリアンライグラスの遺伝的要因を解析する予定であったが、初年度の試験において菌の種子移行についての遺伝的分離が認められず遺伝解析は困難と判断された。そこで今年度は当初の研究計画を変更し、植物-エンドファイト共生系における感染低下リスクが生じるもう一方のプロセスである、種子から植物体への移行を対象に、エンドファイトの種間比較解析を主に行うこととした。予備的試験として遺伝的背景の異なるイタリアンライグラスを用いた実験において、種間の移行率の違いを確認できたが、宿主の遺伝的背景を揃えた実験材料については十分な種子が得られなかったため、急ぎ再度の交配を行い、最終年度の試験を行う予定である。
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今後の研究の推進方策 |
宿主であるイタリアンライグラスの遺伝的背景が一様な十分量のE. occultanceおよびE. uncinata感染種子が得られる見込みである。これらに加え、メドウフェスク(E. uncinataの自然界での宿主)-E. uncinata共生系も用い、採種直後および高湿度・高温処理後の幼苗移行率の比較を行う。また幼苗移行率の差異に関する要因解析として、定量RCR等による種子中菌量の推定、顕微鏡観察による菌の局在の組織学的解析、RNA-seqによる宿主およびエンドファイトにおける遺伝子発現比較等を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は当初行う予定であった、宿主の遺伝的背景を揃えた実験材料での解析が、十分量の種子が確保できなかったため実施できなかった。その分の経費を、「今後の研究の推進方策」に記した実験を実施するために次年度使用する予定である。
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