当初計画ではエンドファイトの植物から種子への移行に関わる植物体側(イタリアンライグラス)の遺伝的要因を解析する予定であったが、菌の種子移行についての遺伝的分離が認められず解析は困難と判断された。そこで本共生系の感染低下リスクが生じるもう一つのプロセスである、種子から植物体への移行に研究対象を変更し、イタリアンライグラス- Epichloe occultans共生系(自然界での共生系)とイタリアンライグラス- E. uncinata共生系(自然界にはない、人工接種による共生系)における、エンドファイトの種子から植物体への移行率についての菌種間比較解析を行った。植物側の遺伝的背景が揃いかつ種子感染率が97%以上の3組合せのE. uncinata感染種子(Eu)およびE. occultans感染種子(Eo)を作出した。採種直後の幼苗感染率(≒幼苗移行率)は1つの組合せで有意にEuが低かったものの、残り2組合せは両菌種ともに80%以上で菌種間に有意差はなかった。高温(40度)長期間処理、あるいは高温・高湿短期間処理を行ったところ、Eoの幼苗感染率はいずれも80%以上を維持していた一方、Euの平均幼苗感染率は、いずれの組合せにおいても有意にEoより低下した。種子においてはEuおよびEoいずれも菌糸がアリューロン層と種皮の間に局在しており、菌種間で差異は認められなかった。また種子中の菌由来DNA量はEuがEoより多い傾向を示した。以上の結果から、E. uncinataはE. occultansに比べ、種子中の菌の活性または生存率が高温や高湿条件によって低下し、幼苗への菌移行率が低くなる事が明らかとなり、またその原因は種子における感染量や局在部位以外の要因によることが示唆された。
|